異世界庭園へようこそ
照砂 楽
プロローグ
「じゃあいつか、僕たちが大きくなったら」
「うん、私たちが大きくなったら」
「「あの場所で…………!」」
雲ひとつなくスッキリと晴れた朝。こんな日には決まってあの夢を見るのはいつからだろうか。
色とりどりの花が咲き誇る野原で、幼い僕と知らない少女がピクニックをしている。何十回と見る夢なのだけど、少女の顔はどうしても思い出せないし、二人だけのピクニックかと言われると、他にも誰かいたように思えてどうもはっきりしない。夢なのだからそんなものだろうと割り切れないのは、これが本当の思い出のような気がしてならないからだ。
そしてこの夢は毎回最後まで見ることができないでいる。最後に少女とした約束は何だったのだろう。大きくなったらあの場所で一体何をしようというのだろうか。
こうして悩むのも今となっては慣れたもの。あくびをひとつ、気持ちを切り替え時計を見た。まだ登校時間には十分な猶予があることを確認し、夢の跡を追って再び布団をかぶるのであった。
春の陽気と呼ぶにはいささか元気すぎる太陽が今日も律儀にここ新潟を眺めている。二度寝から醒めてそんな太陽に朝の挨拶をする頃には、時計の針は9:00を指していた。
放任主義な両親によって高校入学と同時に一人暮らしを強いられた彼にとっては、もはや日常である。私立
ヴァレーラス暦3744年
ユラシアの片隅で少女は走っていた。今日まさに齢17を迎えた彼女は成人の儀を慌ただしく済ませるなり、街の外へと飛び出した。この街道を抜けた先にある平原を目指して、ラニックアイラ・グライアンフォードスはさらにスピードをあげた。
雲ひとつなく、澄み切った青空の下で爽やかな風が走り抜ける。
「広さはこれくらいあればいいよね……?」
肩で息をしながらライラは左手の人差し指にはめた指輪に手をかざす。ただただ風に身を任せていた草の上に金色の線が踊る。次第に書き出された縁と幾何学模様と文字の組み合わさった、つまりは魔法陣が光りだす。ライラはポケットから瓶を取り出して魔法陣の中央に置く。瓶の中には樹液にたゆたう小ぶりな果実がひとつ。その瓶へと魔法陣から新たな線が伸び、繋がる。途端に魔法陣は激しく光を増し、幾重にも広がり、文様を複雑にしてゆく。地球の単位で言えば直径にして4メートル、高さ20メートルを超える高密度な魔法陣の集まりが光の柱として煌々と輝いている。ライラは眩しそうに目を細めながら、声高々に叫んだ。
「おいで、あゆ君!」
光の奔流がより密を増し、巨大な柱は人型へと収縮してゆく。これだけ派手なできことなのだから当然耳目を集め、のちに歴史書にも載る大儀式として大変に騒がれるのだが、今はまだ未来の話である。
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