反撃の開始

 とにかく、俺たちは反撃を始めることにした。

 俺に覚醒したこの“力”を使って。

 言い変えれば、それは妹への宣戦布告なんだ。

 妹が何を考えているかなんて知らないが、いずれ妹を追い込み、このふざけた状況を終わらせてやる。


 しかし妹への反撃を開始する前に、俺はこの“力”のことをよく知らなければならない。

 そしてこの“力”をどうやって使うかが、俺たちの未来に大きく影響する。

 タケシの話を聞く限り、この“力”は時間を止める能力ではないことがわかった。

 俺VS〈レオ〉と〈ガルディア〉の戦闘を見ていたタケシが言うには、俺が止めていたのは時間そのものではなく、〈レオ〉と〈ガルディア〉の時間だったようだ。

 つまり俺の前では〈レオ〉と〈ガルディア〉は完全にフリーズし、その間に俺は銃や鉄の棒を使ってあいつらの急所を破壊した、というわけ。

 でも、どうしてそんなことができたのか、理由はわからない。

 まあ、理由探しなんて、後でいい。

 それよりも――


「この“力”を使いこなすためには、いろいろと検証が必要だ」


 タケシはそんなことを言った。

 確かにそうだ。

 どのような状況で、どのようなタイミングでこの“力”が発動するのか、俺自身もよくわかっていない。

 だからタケシの言うことには賛成だ。

 しかし、問題が一つだけある。

 嫌な予感を抱きつつも、俺はタケシに聞く。


「なあ、タケシ。検証ってのは、どうやってやるつもりなんだ?」


 するとタケシから、こんな返事が返ってきた。


「決まってるだろ、ヨリ。〈レオ〉と〈ガルディア〉を相手に、実戦を交えた実践をするしかない」


 オーケー、タケシ。

 つまり俺は、命をかけて自分の“力”の詳細を確かめろと。

 まあ、わかっちゃいたけどさ……


 しかし、やらないわけにはいかない。

 仕方なく俺は、検証を実施することにした。

 幸いなことに、〈レオ〉も〈ガルディア〉もそこらじゅうにいるから、検証に必要な場所を探さなくて済む。


「準備はいいか? ヨリ」

「おいタケシ。俺が持っているのは拳銃と鉄の棒だけだ。準備もへったくりもあるかよ」

「心の準備が必要だろ?」

「そうだな。じゃあ、あと10年くらいは時間をくれ。検証中に死ぬかもしれないんだ。その間にいい女を作って、デートくらい満喫してもいいだろ」

「どうせディズニーランドもお台場も、きっと跡形も残ってないんだ。デートできる場所なんてねーよ」

「場所なんかカンケーねーよ。愛さえあれば――」

「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと行け!」

「うわぁ!」


 タケシは俺の背中を蹴り飛ばす。

 そして俺の体は〈レオ〉と〈ガルディア〉の前に押し出される。

 〈レオ〉と〈ガルディア〉の視線が、俺に突き刺さる。


「頑張って! ヨリお兄ちゃん!」


 チエちゃんの声援が聞こえる。

 ったく、暢気に応援なんかしやがって。

 これは運動会じゃねーんだぞ!

 しかし、愚痴やボヤキをこぼしている間に、俺はやられてしまうかもしれない。

 だから俺は、意を決して〈レオ〉と〈ガルディア〉に戦いを挑む――しかない。


「うおおおおお!」


 もう自棄クソの俺。

 以前と同じように、雄叫びを上げて〈レオ〉と〈ガルディア〉に立ち向かう。

 タケシ! もし俺が死んだら、墓を立てて、そこにぷっちんプリンをお供えてくれ!


 ――だが、俺は死ななかった。

 この前と同じように、〈レオ〉と〈ガルディア〉は完全に静止し、赤い光によって弱点を曝した。

 それは心臓を俺に差し出しているのと同じだ。

 そして俺は、差し出された心臓を破壊する。

 それだけでよかった。

 それだけで〈レオ〉と〈ガルディア〉は沈黙した。

 そんな検証を何度か重ねた挙句、わかったことは以下の通り。


 ・“力”が発動する距離はあまり関係なく、〈レオ〉と〈ガルディア〉が俺を視認できたと思われるとき、こいつらは完全に静止し、弱点を曝す。


 ・俺に偶然グレネードが投げられたり、ロケット弾が発射されてしまったときは、それらは不発に終る。

(これは偶然発見できたことだが、なんせ実証した瞬間、俺は生きた心地がしなかったがな)


 どうだ?

 まさに最強じゃね?

 これが俺の持っている“力”だ。

 この“力”さえあれば、この世界で生き残ることができる。間違いなく!

 そしてこの“力”は、希望だ。

 それも妹が人類を滅ぼしかけているこの世界では、ただひとつの希望となり得るかもしれない。

 この混沌と絶望しかない世界で、希望は人類に人間性を取り戻させ、新しい秩序をもたらすチャンスになるかもしれない。

 砂漠に雨が降って花が咲くように、新しい世界が始まるかもしれない。

 だからタケシは、俺にこんな提案をした。

 それは俺の“力”を、人類の希望として有効活用する方法だ。


「ヨリ、軍隊を作ろう」

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