覚醒

 なにカッコつけてんだ、俺。


 〈レオ〉と〈ガルディア〉に突進しながら、そんなことを思う。

 まあ、いいじゃねーか。

 どうせ人類は滅亡する。

 だったら、最期くらいカッコつけさせてくれよ。

 俺の人生は短かった。

 たったの18年。

 日本の平均寿命が80歳以上と言われているこの長寿時代に、若くして死ぬ。

 長寿時代と言っても、平和だったときの話だがな。

 平和でない以上、俺の理性もいつ崩壊するかわからない。

 いつ狂気に支配されてしまうか、わからない。

 さっきのガキたちと同じように。

 そうなったら、タケシやチエちゃんに何をしでかしてしまうか、自分でもわからない。

 だから、俺の理性がまだあるうちに、親友のために、そして親友の妹のために、命を捧げようじゃないか。

 そしてそれができるのは、今だけなんだ……。


「うおおおおお!」


 俺は雄叫びを上げながら、〈レオ〉と〈ガルディア〉に向かって疾走する。

 〈レオ〉はその牙で噛みつくか?

 〈ガルディア〉はそのバズーカ砲で、ライフルで、俺を粉砕するか?

 好きにしろ。

 だがタケシに、チエちゃんにだけは、手を出すな!

 俺は覚悟を決める。

 死を受け入れる覚悟を。


 しかし――


 俺は異変に気付く。

 〈レオ〉と〈ガルディア〉の動きが、突然止まったのだ。

 いや、もしかしたら、止まって見えるのかもしれない。

 さっき校舎が崩落した時のことを、思い出せ。

 あのとき俺は、意識が加速して、全てのものがスローモーションに見えた。

 それと同じ現象が、いま起こっているだけなのかもしれない。

 人間は死を目の当たりにすると、神経が鋭くなる。

 だから今の俺は、ただ単に、生存本能が神経を奮い立たせ、意識を加速させているだけなのかもしれない。

 でもだ。

 それだけじゃない。

 俺には見える。

 どこを狙えばいいのか。


 〈レオ〉だったら尻尾の付け根にある、少し盛り上がった箇所。

 〈ガルディア〉だったら顎の下の、調度喉仏の所にある首が少し出っ張った箇所。


 それらが赤く光り、その光が、俺に狙えと囁く。

 きっとあの赤く光った箇所が、あいつらの急所なのだ。

 だから俺は光の囁きに従い、まずは〈レオ〉の尻尾の付け根に銃の照準を合わせる。

 焦る必要はない。

 〈レオ〉の動きは止まっている。

 または、止まっているように見える。

 落ち着いて狙うんだ。

 そして俺は、慎重に、銃のトリガーを引く。

 銃が火を噴く。

 想像以上の反動が、俺の腕に伝わる。


 狙いは命中する。


 〈レオ〉の尻尾の付け根が、銃弾によって弾け飛ぶ。

 それと同時に、赤い光が消える。

 これと同じ動作を、俺は3回繰り返す。

 3回繰り返すことで、3体の〈レオ〉を始末する。

 オーケー。あとは〈ガルディア〉だ。

 だが銃の弾が切れた。

 予備のマガジンはない。

 でも問題ない。

 銃が使えないなら、左手にある鉄の棒を使えばいい。

 この棒で、〈ガルディア〉の喉仏を叩き割ればいいんだ。

 俺は棒が届く距離にまで、〈ガルディア〉に走り寄る。

 〈ガルディア〉もまだ止まっている。

 またはそのように見える。

 だから簡単だった。

 俺は鉄の棒を二回振り、2体の〈ガルディア〉の喉仏を叩き割る。


 それからだった。


 ドーン!という音を立てながら、2体の〈ガルディア〉は地面に倒れる。

 〈レオ〉たちも全身の力が抜けたように、四本の脚が崩れて機体が地面に沈む。


 ……俺は……勝った……?


 よくわからない。

 何が起きていたのかがわからないから、勝ったという実感が湧かない。

 それよりも、凄く疲れた。

 俺の息は酷く上がっている。

 そして凄く喉が渇いていたことを、体がようやく思い出す。


「ヨリ!」


 チエちゃんを連れたタケシが、俺に走り寄ってくる。

 そして俺に近づいた矢先、


「スゲーじゃねーか!」


 と言ってタケシは俺をハグした。

 びっくりする俺だが、さらに――


 ――突然の拍手


 それも大勢の拍手だ。

 まるでコンサート会場で、有名アーティストが名曲を歌いあげたときのような、立派な拍手。

 今までどこに隠れていたのか、半壊した校舎から、校庭から、次々と人が現れ、手を叩き、俺に拍手を送るのだ。

 まるで英雄を称えるように。

 はっ、そんなガラじゃねーのに。

 そしてバグを解いたタケシは、俺の両肩をしっかりと掴み、こう言った。


「なあ、ヨリ。お前、もしかして強いんじゃねーの?」


 俺強い――いわゆる、俺TUEEE?

 おい、タケシ。

 まさか俺が、転生モノの異世界ファンタジーによくある俺TUEEE系主人公に覚醒したってことか?

 つまり俺は、妹が人類を滅ぼす異世界に転生して、さらに俺はそこで覚醒して、俺TUEEE系の最強主人公になる――それってさ、WEB小説によくある、いわばテンプレじゃん。

 そんなこと、現実に起こり得るのか?

 もしかして俺は、まだ夢でも見てるんじゃないのか?


 俺は頭を大きく振って、思考をシャッフルする。


 まあいいさ。

 どうであろうと、それで俺が、俺たちが、生き残れるんだったらな。

 それにこれが夢だったら、醒めればいいだけの話だ。

 そうだろ?


「タケシ、一つ聞いていいか?」

「何だよ? ヨリ」

「世界に〈ガルディア〉はどれくらいいるんだ?」

「確か、1,000万体は配備されていると聞いたことがある。〈レオ〉は、きっとその3倍はいるかもしれない」

「じゃあ、それを全部、ぶっ壊そう」


 するとタケシは笑った。

 それも大笑いだ。

 タケシは腹を抱えて地面に崩れそうになるも、何とか耐えている。

 そんなタケシだったが、笑いが止んだ後に、俺の瞳をしっかりと見据えながら、こう言った。


「いいぜ! やろうじゃないか、ヨリ! そして平和を取り戻そう!」


 ああ。そうだ。

 妹の好きにさせてたまるか。

 人類が、お前のせいで滅亡してたまるかよ。

 1,000万体の〈ガルディア〉と、その3倍の〈レオ〉と、それ以外にもあるだろう様々な軍事兵器を全てぶっ壊すには、どれくらいの時間がかかるのかはわからない。

 もしかしたら、俺の寿命じゃ足りないかもしれない。

 でも、やるしかないんだ。

 そして、生き延びてやる。

 たった今覚醒した、この“力”を使ってな。


 ――だが、このときの俺は、まだ知らなかった。

 この“力”が、世界にさらなる混沌を招き、大切なものを失うきっかけになってしまうことを――

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