だから【R18】になるのでやめてください
「――はあぁ~」
俺は
妹が当選して、数日経った。
夏休みだと言うのに、日に日に疲れが溜まる。
そりゃそうだ。
妹が来てからと言うものの、妹は毎日毎日俺に休むことなくベタベタ密着しようとし、そして俺は休むことなくそれを阻止しなければならない。
だが俺の阻止は大半が失敗し、結局、俺は妹の餌食になってしまうわけなのだが……。
(ただし一線を越えさせない努力は続けている!)
こんなんだったら、学校に行っている方が、断然マシだ。
だから校長先生。俺のために、夏休みを終わりにしてくれないか?
でないと――
「じゃあ、お兄ちゃん! 一緒にお風呂入ろ!」
こんな風に、妹は俺と一線を越えるような過度なスキンシップを続けてくるんだ。
「なあ、ハヅキ。俺とお前のエピソードを【R18】にするのだけは、やめてくれないか」
浴室のドアを勢いよく開けた妹に向かって、俺はそう言う。
一方、妹はバスタオルを体に巻いている状態で、湯船に浸かる俺を見下ろしている。
「何で? お兄ちゃん? 別にいいじゃない」
「よくねーよ! モラル的に! 俺たちは、兄妹だぞ! いいか? ハヅキ! 兄妹同士でそういうことをするのはな、世間的に許されていないわけで――」
「ゴチャゴチャうるさいなー! もう!」
直後、妹は体に巻いていたバスタオルを脱ぎ去り、俺に裸体をさらす。
「待てハヅキ! それはやり過ぎだ! 読者は喜ぶかもしれないが、俺は喜ばないぞ!」
俺は自分の両目を手で覆うも、次の瞬間には――
――ザブーン!
湯船の水面が弾ける音がした。
妹が湯船に飛び込んできたのだ。
俺の家の湯船は一般家庭用サイズだから、そんなに大きくはない。
よって妹が入ってきたことで、俺は妹に強制的に密着せざるを得ない。
しかも、裸同士でだ。
「俺は出る」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
湯船から脱出を試みる俺。
だが妹は手足をまるでタコのように俺の体に絡ませ、俺を湯船に縛り付ける。
俺は足掻くが、無駄だった。
人間でないこの妹は、通常の人間よりも筋力を高めに設定されているようで、そのオーバースペックのおかげで、俺は逃げることができない。
まるで妹に捕食されてしまった獲物だ。
どうにもこうにも、俺は動くことすらできない。
次はどうするつもりだ?
まさかハヅキ。ホントに俺を食うつもりじゃないだろうな?
しかし――
「お兄ちゃん……」
甘えた声で、妹は小さく囁いた。
そして浴室に柔らかく響いたその囁きは、湯船の中でゆっくりと溶けていく気がした。
それだけで、特に妹は何もしてこなかった。
まるで生きた俺の体の体温を、全身で感じ取っているかのように、妹は動かない。
俺は小さく溜息を吐いた後、妹の頭にポンと手を置いた。
「どうしたんだよ? ハヅキ。“以前のお前”は、こんなんじゃなかった」
すると妹は、俺の問いに対して、こう答えた。
「もう、後悔したくないからだよ。お兄ちゃん」
「……後悔?」
「そう。“前みたい”に、たくさんの未練を残して、終わりたくないの」
「そのことと今の行為と、何か関係があるのか?」
「あるよ。十分に」
それから妹は俺の目を見据え、
「ねえ、お兄ちゃん。明日、デートしよ」
と言った。
当然俺は、
「は?」
と目を丸くするようなリアクションしかできない。
「それは……お前とか?」
「もちろん、そうだよ。私とお兄ちゃんの、二人っきりのデート」
俺の口から、また溜息が漏れる。
「何で妹とデートしなくちゃならなんだ」
「いいじゃん。私がデートしたいから、するの」
「理由になってねーぞ。しかも俺は、行くと言ってねーぞ」
「お兄ちゃんに拒否権はないから、断ることはできないの」
「何でだよ。とんだ独裁政権だな」
「いいの。じゃないと、私はまた後悔して終わる。だから今のうちに、やりたいことをやる。したいことをする。それだけ――」
そして妹は、最後にこんな言葉を、俺に言い残した。
「――人類が滅亡する、その前に」
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