この世界は綺麗だった〜学校を辞めたら異世界転移した!?〜
皐月☆良いことある。
第1話 プロローグ
9月1日、午前6時半。
窓から見上げた空は雲ひとつ無かった。
寝癖のついた髪をかきあげ、大きなあくびをした。
いつもの癖で早起きしてしまった俺は、その日、初めて二度寝をするのだった。
他の同級生たちは、今頃電車に乗っていることだろう。
しかし、俺は今日からはもう早起きをする事は無い。
なぜなら、昨日、俺は学校を辞めたからだ。
退学では無い、自主退学だ。
理由はいじめだ。
なぜいじめられていたかというと、俺の目に理由がある。
オッドアイ。
別名、虹彩異色症。
俺の左目は生まれた時から、赤色に染まっていた。
これのせいで俺は小さい頃からハブられ、いじめられ、気持ち悪がられてきた。
それも今日で終わりだ、人と関わらなければ、それもなくなる。
両親は海外に出張中で、日本には俺1人で住んでいた。
だから、俺が学校を辞めた事は知らない。
帰ってきたら、土下座をして説明しよう。
そう思い、俺は二度目の眠りにつくのだった。
*****
目が覚めたのはちょうど昼の12時くらいだった。
「もうこんな時間か」
目覚まし時計を確認して、俺は起き上がった。
今日は好きなことをしようと決心していた俺は、急いで支度をするのだった。
「行ってきまーす」
誰もいない家に挨拶して、俺はまずはじめに近くのゲームセンターへと向かった。
平日のゲームセンターはガラリとしていて、妙な孤独感とともに独占感を受けた。
1時間ほどゲームに興じて、疲れた俺は自動販売機へと向かった。
自動販売機の前には如何にもといった感じの不良が3人ほどたむろっていた。
ちっ、じゃまだなぁ。
そいつらの横の自販機の前まで歩くと、不良のひとりが俺の顔を見た。
「兄いちゃーん、カラコンなんかしちゃってイカしてるねぇー、俺らちょっとお金ないからさー、貸してくんないかな?」
*****
「ちっ、なめやがって、早く渡せっつーの」
不良たちはそう言って何処かへ歩いて言ってしまった。
ゲームセンターの横の路地で俺は天を仰いでいた。
頰と、腹と、足が痛い。
なんでこんなについてないのか嫌になるくらいだ。
いっそ......
いっそ死んでしまおうかな。
そう思いながら起き上がる。
「いてぇ」
腫れた頰をさすりながら俺は、家に帰るため歩き出した。
近くのゲームセンターと言っても家からバスで20分くらいの場所にあったので、帰るのには少し骨が折れそうだ。
40分ほど歩き、腕時計を見ると午後16時を指していた。
ふと左を見ると、昔遊んでいた公園があった。
ブランコと滑り台だけがある小さな公園だ。
何を思ったのか俺は、不思議とその公園へと足を踏み入れた。
「懐かしいな」
サビた滑り台をさすりながら独り言を呟いた時だ。
「貴方はこの世界に満足してる?」
透き通るような声が俺の頭の中で響いた。
後ろを向くと、誰もいなかったはずの公園のブランコに、銀色に輝く長い髪の毛をたなびかせた少女が座っていた。
「貴方はこの世界に満足してる?」
少女の口は動いていない。
「満足なんかしてねぇよ、する訳ないさ、こんな目に生まれて、家族に迷惑かけて、さっき自殺さえ頭をよぎったぐらいだ。俺は、生まれてくる世界を間違えた。」
見ず知らずの少女に何言ってんだ俺。
全くの自然的に言葉が出てしまった。
「じゃあ、生まれ変われたとしたら、生まれ変わる?」
少女の口は動いていない。
「俺は、生まれ変わらないかな。俺よりもっと辛い境遇に生まれて、一生懸命に生きている人たちがたくさんいる中で、いじめられたぐらいで自殺しようなんか考える奴に生まれ変わる権利はねぇ」
また自然的に言葉が出てしまった。
「だったら、このままゼロからやり直す?」
少女の口は動いていない。
「そうだな、それならいいかもな、でも、家族に迷惑がかかる。これ以上家族を巻き込みたくないんだ。」
何故か躊躇わずに本音を話すことができた。俺は家族が大事だ。母も父もいつも俺のことを思って育ててきてくれた。俺の目のせいで周りから避けられたりもしていた。それでも、俺を愛してくれた。こんな厄介者の俺を1人の家族として愛してくれた。そんな母と父の幸せが俺にとっては1番大切なことだった。
身勝手な思いだが、本心であった。
「わかりました、では貴方の家族は私が幸せにして見せましょう。その代わり、貴方は次の世界で多くの人を幸せにしなさい。」
すると、少女はブランコから立ち上がり、俺の方へと歩いてきた。
「私は世界の理を作りし13の神の1人、フェレーナ。その理から外れし貴方を、ふさわしい世界へと転送しましょう。私に掴まって下さい。」
少女は口を動かした。
「え?え!?神様?ちょ、ちょっと待ってくれ、さっきも言ったけど家族が心配するから行けないって。」
「そこのところは大丈夫です、貴方の家族の記憶は消しておきましょう、ついでに貴方に関わった全ての人から貴方という存在を消します。」
「じゃ、じゃあ、俺の両親は辛い思い出をなくせるのか?」
「そうです」
「そうか......」
「貴方の記憶も消しますか?」
「いや、俺は両親のことを忘れたくない。両親との思い出は俺の数少ない宝物だからな。」
「ふふっ、わかりました、そうだ、名前を聞いていませんでしたね?」
「ああ、俺は、小鳥遊 蒼馬 だ。」
すると、フェレーナの背中に真っ白に輝いた翼が姿を現した。
俺は手を伸ばし、フェレーナの手を握った。
そこで、俺は気を失った。
*****
あれ、俺、今、落ちてる?
遠くなって行く空を見て、俺はそう思った。
下は草原、このまま落ちれば間違いなく俺は死ぬだろう。
嫌だ、死にたくない、死にたくない。
死ぬのが、怖い。
その時だ、あと地面までもう少しというところで、俺の落下運動が停止した。
そして、俺は地面に足をつけた。
「俺、生きてるのか?」
地べたに生える草を踏みしめ、俺は自分の手のひらを見つめた。
そして、状況を把握する。
「俺は、そうだ!フェレーナに転送してもらったんだっけ」
俺は辺りを見回した。
「ここが、新しい俺が生きる世界、ん?」
俺はパーカーのポケットに何か入っていることに気がついた。
ポケットに手を突っ込んで、中のものを取り出すと、それは封筒だった。
差出人はフェレーナと書いてあった。
すぐさま、封を切って中身を取り出す。
中には一枚の手紙と、銀色に輝く指輪が入っていた。
『小鳥遊 蒼馬、転送に当たっていくつかの説明をここに記載しておきます。
1つ、一緒に同封されていた指輪はその世界に生きる人々と意思疎通ができるアイテムです。言ってしまえば、翻訳機械といったところですね。
2つ、貴方の体の基礎体力と脳の活動割合を大幅に上げて起きました。ちょっとやそっとのダメージではビクともしない体にしましたよ。
最後に、前の世界のことは他言無用ですよ。
それでは、この世界で貴方が満足に暮らせていけるよう祈っております。
フェレーナ』
手紙にはこう書かれていた。
最初は夢だと疑ったがどうやら現実らしい。
(頰を何度かつねって、最後に殴って見たから)
封筒から銀色の指輪を取り出して、右手の人差し指にはめた。
その後ポケットに手紙をしまう。
そして、改めて辺りを見回した。
広大な草原の真ん中に、ただ俺だけが立っていると言う状況だった。
「まじか、初っ端からついてないな俺の異世界転移。もう少し人がいるところに転移して欲しかったよ」
大きなため息を吐きながら、パーカーのフードを深くかぶった。
このスタイルは転移してからも変えないつもりだ。
そして、俺は歩き出した。
自分が本当は何者で、何故ここにいるのかをまだ知らないまま。
俺は、歩き出すのだった。
この世界は綺麗だった〜学校を辞めたら異世界転移した!?〜 皐月☆良いことある。 @Ryuta
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