八月の妖精
SaLa
序章 出会いは突然に
僕は
高校二年生の、どこにでも居るような暗くてオタクな男子。
来年は大学受験もある…早くもめげそうだ。
そんなオタク男子の受験ほど興味が惹かれない話は無いだろう。
田舎の高校に通っている僕は、セミの声に汗が止まらない夏…運命的な出会いがあった。
田舎の学校と書いたのには理由がある。
そうじゃないと、まず通学路が向日葵畑の中というのが説明つかない。
無数に向日葵が生えている景色を、自転車で駆け抜ける。
ワイシャツを風になびかせ、玉の汗が陽の光を反射しながら飛んでいく。
やっと夏休みが始まる…何をしようか。
夏休みのビジョンを組み立てながら、機械のようにペダルを踏み続けた。
「葉月!今年の夏も引きこもるんか?やっぱ夏はパーッと遊ばないかんよ。夏はスイカと花火と女ってあの映画でも言ってたやろ?カラオケでも行こうや!最近アニソンも覚えたんやで…」
教室に入るや否や声を掛けてきた彼は僕の親友だ。
このストーリーでは全く関係ないので説明は省く。
「スイカと花火だけでいいから…」
僕はその映画の主人公と同じ返事をした。
それとほぼ同時に担任が教室に入ってくる。
短めのホームルームの後…自由が訪れた!
「んじゃーな!ちゃんと外に出んとミイラになるけんね!」
親友はそう言い残すと、僕と真反対の方向に自転車を漕いでいた。
僕も長い長い向日葵畑へ…家に着いたら、まずパソコン付けて―
ガッシャーン!
自転車の倒れる音、空を飛ぶ荷物…前方に倒れている少女。
これはまずい…のしかかってくる自転車を放り除け、少女の元へ駆け寄った。
「いたた…もう、いきなり跳ばすなんて酷いよ!」
近づくと少女はむくりと起き上がった。
見た目は小学校低学年から中学年といったところだろうか。
白いワンピースを着ている。
「ごめん、ケガは無い?あー…何かあったらここに連絡して!」
大急ぎで鞄からノートを取り出し、切れ端に携帯番号を書いて渡す。
「ううん、だーめ!」
少女はその紙切れを目の前で破り捨てた。
そして彼女はキラキラの目で僕をまっすぐに見つめ…
「お兄ちゃん、私と毎日遊んで!」
「嘘でしょ…」
たった一つの事故と引き換えに夏休みが吹っ飛んだ。
しかしその無邪気な笑顔と、薄汚れたワンピースの前で…駄目とは言えなかった。
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