まいごのまいごのスナネコちゃん

こんぶ煮たらこ

まいごのまいごのスナネコちゃん

「な゛に゛ぃッ!?じゃんぐるちほーに遺跡だと!?」


薄暗い地下迷宮にツチノコの声が響きます。


「そうです」

「先日じゃんぐるちほーの住民からそのようなものを見つけた、との報告があったのです」

「も、もっと詳しく教えてくれ…!!」


興奮するツチノコをよそにアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手は話を続けます。


「なんでも第一発見者のカワウソによるとたーのしー!ものが沢山あるとかないとか…」

「もしかしたらジャパリコインや金銀財宝がザックザクかもしれないのです」

「ジャパリコイン…金銀財宝……うわぁ〜!すごいぞ〜!アハハハハッ!」


遺跡の事になるとついテンションが上がってしまい周りが見えなくなってしまうツチノコ、今日もはやる気持ちが抑えきれず思わず叫んでしまいます。


「どうしたのですか?いつものツチノコらしくない驚き方なのです」

「いつもならここでヴォオーホォーハァーハァ、と言うのです」

「そんな驚き方しねーよッ!!」













「じゃんぐるちほーに遺跡か…。確かにこの前の海はとんだ期待外れだったからな。密林の奥深くに人知れず荒廃した遺跡…もしかしたらまた一歩オレのルーツに繋がる手掛かりが…!?ヴォオーホォーハァーハァ……ハッ!?いかんいかん冷静になれ…」


先程から興奮冷めやらぬツチノコ。

ひとりごとをブツブツと呟きながら慣れた手つきで探検用のかばんに必要そうなものをあれやこれやと詰め込んでいきます。

と、ここでふとペットボトルに入った水を見てスナネコの姿が頭をよぎりました。

そう言えば今日はまだ姿を見ていません。

いつもならもうこの時間には遊びに来ていてもいい頃です。


「…まぁいいか。どうせ数日空けるだけだ」


どうやらツチノコはスナネコに遺跡探検に行くことを教えるかどうか迷っているようです。

でもきっと何も言わずに出て行ったらスナネコは悲しむでしょう。

それどころか心配してあてもなく探しに出てしまうかもしれません。


「………はぁ」











「…おい。スナネコいるか?」


ここはスナネコのお家。

やっぱりツチノコはスナネコの事が気がかりで声をかけにきたようです。


「………んぁ?おぉ…ツチノコ、おふぁようございまふ…」


ツチノコの呼び掛けに応じてさっそく家主のご登場です。

どうやら先程までお昼寝をしていたのか、口元も足取りもおぼつかない様子。


「これからじゃんぐるちほーに遺跡探索に行くんだが……お前も来るか…?」

「遠慮しときます」

「即答かよッ!!」


てっきりスナネコならおぉ~、と目を輝かせてノッてきてくれると思っていたものですから、これにはツチノコも出鼻を挫かれた気分です。


「…じゃあいい。オレ一人で行く。…後でやっぱりついて行きたいなんて言っても絶対連れていかないからなッ!?」

「ツチノコはぼくについて来て欲しいのですか?」

「そうじゃねぇッ!誰がお前なんかと…」


ツチノコが怒って手に持っていたかばんをふり下ろします。

すると中から勢いよく筒状の容器が一つごろりと転がってスナネコの足に当たりました。


「あ………」

「これって……水筒ですか?」

「な、何だよ…。別にこっちの方が沢山水も入るし保温性も効くから持ってきただけであって決して…」

「やっぱりぼくも行きます」

「聞けよッ!!…ってあぁ!?やっぱり行くだと!!!?」


そう言うとスナネコはすっくと立ち上がり水筒を手に取りました。

猫の心と秋の空は変わりやすいとはよく言ったものです。



「迷子にならように気を付けてくださいね」

「それはこっちのセリフだ!!」












「おーい!!スナネコー、どこだー!?」


草木がうっそうと生い茂るジャングルにただひとりツチノコの声が響き渡ります。

順調にじゃんぐるちほーに到着したところまでは良かったのですが、どうやら案の定スナネコと(と言うよりスナネコが)はぐれてしまったようです。


「まったく…ちょっと目を離すとこれだ……」


ジャングルは周りが常に木で覆われておりこれではスナネコを探すのも一苦労…。

しかしこんな時ツチノコにはとっておきの秘策があるのです。



「ちゃらららっちゃら~ピット器官~!!」

「ピット器官というのはだな、今の赤外線ゴーグルのように色んなものを~」

「………………」



そこまで言いかけて急に黙り込んでしまいました。

恥ずかしくなったのか自分の顔がみるみるうちに赤くなっていくのを感じます。

こんな所誰かに見られたらたまったものではありません。


「…じぃ~」

「……………ん?」

「な、何だよぅ………」






「「………………………………」」








「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!?!?!!?」

「ヒィッ!?あ、ああああっち行ってよおおおおぉぉぉ!!!!」







一方その頃スナネコはというと……。












「おぉ…この花とってもクサい」


のんきにお花の観察をしていました。

自分が迷子だとはつゆ知らず、次から次へと現れる見た事のない植物や動物に興味津々です。


「見てくださいツチノコ。この花こんなにクッサ…あれ?」


振り返ると辺りには自分しかいません。

ジャングルからは虫の音と鳥のさえずりだけが返ってきます。

どうやらようやく自分が迷子だと気付いたようです。


「おぉ…まいごーなんつって」


柄にもなくダジャレを言ったりしてみましたがそれで気が紛れる訳でもなく、むしろむなしさが余計不安を煽ります。

しかしそういう時こそ自分にこう言い聞かせるのです。



「でもまぁ、騒ぐほどでもないか」



そうです。まずは落ち着いて、肩から下げた水筒を手に取って、お水を取り出して…。

そんな感じで一息ついていると向こうからやたらと目立つ白黒模様をしたフレンズがやって来るのが見えました。



「ぐすっ…変なのには遭遇するしそのせいで道には迷うしもう今日は散々だよぉ…」


トボトボと歩く姿にはどこか哀愁が漂っておりその目には大粒の涙が…何やら事情がありそうです。

気になったスナネコはぴょんと立ち上がるとそのフレンズの元へと駆け寄りました。


「あの~」

「っひゃぅ!?あ、ああああっち行ってよおおお!!」

「えっ」


あっち行って、目の前のその子は両手を大の字に上げながら確かにそう言いました。

いきなりそんな事言われたものですからこれにはスナネコもビックリ。

心配して声をかけたつもりだったのに拒否されてしまってはどうしようもありません。


「よくわかりませんがわかりました」

「えっ……!?ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」

「な、なんですか?」

「あ、あっち行かないでよぉ………」

「えぇ~…」


もはや訳も分からず困惑するスナネコ。

どうやら向こうも気が動転しているようで自分が何を言っているのかいまいち理解出来ていないようです。


「えーと……とりあえずお水でも飲みますか?」

「………いいのぉ?」

「はい。今ちょうど休憩しようと思っていたところなので」


そう言うとスナネコは器用に水筒の蓋を回しトポトポとお水を注いでいきます。

それを不思議そうにただじーっと見つめるそのフレンズ、どうやら水筒に興味津々なようです。


「な、何だよそれぇ……」

「あっ、これですか?これは水筒と言ってですね~…」


そうやって得意気に話す様はまさにツチノコそっくり。

そのフレンズはスナネコからお水の入った蓋を受け取るとごきゅ、ごきゅ、ごきゅと勢い良く飲み干してしまいました。


「……っぷはぁ!生き返ったぁ」

「おぉ~良い飲みっぷり」


ようやく落ち着いてくれたようでスナネコも一安心です。











「ぼくはスナネコです。お隣のさばくちほーからやって来ました」

「あたしはミナミコアリクイだよぉ」

「ミナミコ…ミナミコ……ミナミこあこあ?」

「えぇっ!?」


どうやらスナネコ、あまり長い名前を覚えるのは得意ではないようです。


「こあこあはどうして泣いていたのですか」

「う、うん……。仲良しのまうま…タスマニアデビルちゃんの所に行こうとしてたんだけど変なフレンズがいきなり脅かしてきて無我夢中で走ってたらいつの間にか道に迷っちゃって……」


そう言ってまた泣き出しそうになる彼女。

せっかく機嫌が直りかけていたのにこれではまた振り出しに逆戻りです。

しかしスナネコは落ち着いてフォローを入れます。


「じゃあ一緒ですね。実はぼくも一緒に来たツチノコとはぐれてしまって今まいごなんです」

「…ツチノコぉ?」

「はい。ぶっきらぼうで目つきが悪くてあとついでに口も悪くてよく奇声を発したり遺跡の事になると聞いてもいないのに急にベラベラ喋りだす蛇のフレンズです。ちなみに下は何も穿いてないへんたいさんです」


スナネコはとりあえず思いつく限りのツチノコの特徴を上げただけだったのですが、その余りに酷い言われようにミナミコアリクイは思わず吹き出してしまいました。


「ぷっくくくく………笑わせないでよぉ」

「え、ぼくなにか面白い事言いましたか?」

「そうじゃないけどぉ…。何かスナネコはそのツチノコって子の事がほんとに好きなんだなぁって」






好き


彼女にそう言われた時胸の奥が何かキュッと締め付けられる気持ちになりました


思えば何故スナネコはツチノコと遊ぶようになったのでしょう


熱しやすく冷めやすい、飽き性な彼女とは違いツチノコは常に一つの事に夢中になれる強い根気を持っています


一見正反対で気が合うとは到底思えないようなふたり


ですがそんなツチノコの姿は彼女にとってとても眩しいもののように感じられたのです


自分に無いものを持っている…それはとても素敵な事です


どうしたらそんな風になれるのか聞いた事もありました


ですがツチノコは



「お前はそうやってとにかく色んなものに興味を持って自分から突っ込んでいく…そういう風に行動に起こせる勇気がある奴ってのは意外と少ないんだ。だからオレはお前のそういう所、結構評価してるんだぞ……」



そう言ってくれたのです


確かに初めはツチノコの反応が面白くて付き合っていた事もありました


ですが一緒にいるうちにツチノコは自分の良い所も悪い所もちゃんと認めた上で接してくれているという事に気付いたのです


きっとスナネコにとってツチノコは生まれて初めての、冷める事のない唯一無二の存在なのでしょう


それに気付けたからこそ、心の底からこう言えるのです




「はい…!大好きです」








それからしばらくスナネコはミナミコアリクイと色んなお話をして盛り上がりました。

じゃんぐるちほーの事、さばくちほーの事、自分の大好きなものの事、それからともだちの事………。

たくさんたくさんお喋りして気が付けばあっという間に時間が過ぎていました。



「スナネコは凄いね。あたしさっきまで不安でいっぱいだったのにスナネコと話してたら元気が出てきたよぉ」

「ぼくもこあこあとのお話が楽しくてつい喋り過ぎちゃいました。大丈夫ですよ、きっと今頃お仲間のタスマニアデビルが探してくれています」


スナネコがそう言うとミナミコアリクイは両手をくいっと上げくの字に曲げ、スナネコと初めて会った時と同じポーズを取りました。


「なんですかそのポーズ」

「スナネコに同意、のポーズぅ」

「面白いですね、それ!じゃあぼくもこあこあに同意のポーズぅ」

「………何やってるんだお前ら」




その時後ろから聞こえてきたため息混じりの声。

そう、この聞き覚えのある声の主は………。



「あっツチノコ!?駄目じゃないですか勝手にいなくなったりしちゃ」

「お前が勝手にいなくなったんだろッ!!」


いつものボケとツッコミをかますふたり。

場の空気が一転しいつもの日常が戻った瞬間です。

ツチノコも無事なスナネコの姿をみて内心ホッとした事でしょう。


「もぉ~ツチノコが迎えに来ないからぼくこあこあに浮気しちゃったじゃないですか」

「あぁ?こあこあって………あっ!?お前はあの時の!!」

「えっ……?あっ!?さっきの変なフレンズぅ!!」

「誰が変なフレンズだッ!!」


ツチノコの威勢の良いツッコミに慣れていないミナミコアリクイはひゃっ、と萎縮してしまいました。

その声に反応しツチノコの陰からもうひとりのフレンズが顔を出します。


「むっ…その声はこあこあか!?こあこあなのか!?」

「……えっ!?まうまう!?まうまうぅ~~!!!」


ひしと抱き合うミナミコアリクイとタスマニアデビル。

どうやらこちらも無事出会いを果たせたようです。


「あれ、ツチノコはタスマニアデビルと知り合いだったのですか?」

「あぁ…こいつがここまで案内してくれたんだ。実際こいつがいなかったらオレもちょっと迷ってたかもな」

「なんだやっぱりまいごだったんじゃないですか」

「はぁ!?だから違うっつってんだろッ!!」











「じゃあぼくたちそろそろ行きますね」


再会を喜んでいたのもつかの間、気が付けばもうお別れの時間。

沈みゆく太陽がジャングルの草木を真っ赤に染め上げています。


「ふたりとももう迷子になっちゃ駄目だぞぉ~」

「あっ、スナネコ……」


とっさにミナミコアリクイがスナネコを呼び止めました。

何かを言いたげな様子ですがうまく言葉が出てこないのかもじもじしたまま喋ろうとしません。

すると横にいたタスマニアデビルがぽん、とミナミコアリクイの背中を押しました。



「…あ、ありがとうのポーズ!」

「え?」

「今日一日、スナネコといられて楽しかったよぉ!スナネコのお陰であたし、勇気をもらえたから……だから………」


そこまで言いかけてまた言葉に詰まるミナミコアリクイ。

その目からはまた大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちています。

しかしそんな彼女を見てスナネコは得意の意地悪で返します。


「こあこあ~ポーズが変わってませんよ~?」

「えぇっ!?」



そう、これが彼女なりの精一杯のお返し……むしろ本当はこれが精一杯の照れ隠しなのです。

無論それをよく知るツチノコは…。


「あぁ…悪いな。こいつ気に入った相手にはすぐこういう事言うんだ」

「そ、そうなんだぁ……えへへ」

「…もぉツチノコはひとこと余計ですよ」




今日一日、本当に色々な事がありました。

ツチノコとさばくを越えたり、じゃんぐるでおもしろ植物を見たり、新しい友達が増えたり………。

そんな経験のひとつひとつがスナネコのまんぞくとなってまたこれからの彼女を彩ってゆく事でしょう。




「こあこあ、また遊びましょ」






きっとまたいつかぼくら出会える事を信じて






「…のポーズぅ」

「……うん!また遊びましょ、のポーズぅ!!」














「どうしてまうまうなんでしょうね」

「あぁ…?オレが知るかよ…。まぁあだ名なんて仲良いもの同士で呼び合って分かりゃいいからな」

「ふたりだけの秘密…いいですね~」


じゃんぐるちほーからの帰り道、そんな他愛もない会話をするふたりの姿がありました。

夕焼け小焼けの空の下、並んで歩くかげぼうしがふたつ、さばくちほーに続いています。


「じゃあぼくらもあだ名で呼び合ってみますか?」

「はぁ!?何でそうな……あっ、おい待て!」


ふいに先に行こうとするスナネコをツチノコが呼び止めます。


「どうしたんですか?」




「………ん」


ツチノコはただ一言そう言って片方のポケットから手を差し出しました。





「………手!繋いどかないとまた迷子になるだろ…」


照れ臭そうに鼻の頭をぽりぽり、とかくツチノコ。

スナネコは黙ってぎゅっとその手を握ると、そのまま帰るまでその手を離す事はありませんでしたとさ。


おしまい

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まいごのまいごのスナネコちゃん こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako

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