無題終末
楠木黒猫きな粉
第1話 Restart
むかしむかし、ある世界は終わりを迎えました。その世界はもとより終わりを定められて創られた世界だったからです。ある、運命の日、人は自分を誇るでしょうか?それとも貶しながら生き長らえようとするのでしょうか?そんなこと分かりはしませんが、これだけは覚えておいて貰いたいことですね。
人は理想を終える生き物だという事を必ず忘れないで下さい。この華やかでも緩やかでも美しくもない終末を見届けるために───
カチリ、カチリ、と時計は回る。それが時計というものの使命で役目で義務で誓いだからだ。
それは、何も世界に残っていなかったとしても変わらない。けして変わらない事だから。
──────これは僕が終わりを叶える物語
──────これは私が始まりを失う物語
──────僕が始まりを定める物語
──────私が消滅を定める物語
──────始まりを定めたのなら終わりまで一直線
──────消滅を定めたのならその道を一直線
──────これは、少し悲しい物語
──────これは、少し嫌いな物語
──────ただ、何かを失う物語
2016年8月10日午後1時30分
ポタリ、ポタリと水が落ちる音がする部屋の中、時計は動き出す。怒りと悲しみに震える少年を嘲笑うかのように、鼓舞するかのように
ポタリ、ポタリと点滴の落ちる音がする部屋の中、時計は止まり始める。諦めと絶望にうちひしがれる少女を馬鹿にするように、応援するかのように
少年は、暗闇の中で妹を抱き抱えている。しかし、妹に温もりはなく。ただの人形のように冷たくなっている。少年は泣いている。雨が降り始め暗くなった部屋の中、強盗に入った男二人の死体を眺めて、泣きながら決意する。この男二人を強盗にするまでに追い込んだ者を一人残らず殺す事を決意する。それは少年の始まりで結末が決まった瞬間だった。
少女は、光の中で思い出を抱き締めている。しかし、その思い出に色はなく。ただの温かい記録になっている。少女は笑っている。雨が止み明るくなった部屋の中、お見舞いに来た人たちを眺めて、微笑みながら決意する。ここにいる皆が笑顔で送ってくれるように、笑って来年のこの時間に訪れる死を迎え入れる事を決意する。それは少女がいつか始まる現実を望み続けた瞬間で、そして消滅が決まった瞬間だった。
──────これは、少しの希望の物語
──────これは、少しの絶望の物語
──────これは、誓いが叶う物語
──────これは、誓いが壊れる物語
──────少しだけ変わる世界の物語
──────崩れていく終末の物語
──────結末を終わらせる物語
時計の針は語ります。独り虚しく語り続けます。
そして全てを─────嘆きます。
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