第6話 ~よくよく考えたら女子と二人でプリクラ撮るのは初めてかもしれない~


「おお、よくぞ戻られた勇者よ――」


 から始まる、王様及び国民達のお出迎え。

 そして、


「やっぱり信用できん」


 とほざく例の疑り深い爺さんに、


「まぁだ、言うのかい、このもうろくじじいッ!」


 と老女神フラーファが殴りかかったのを見届けたのち、俺は次の攻略拠点、『海上要塞シャラザード』へと向かった。


 姿

 

 事前に海上要塞と聞いていたので、その恰好をしてきたのだが、持ってきている三つの道具の一つ、ビート板がいい仕事をしてくれる。

 ようやく泳ぎになれてきたと思ったら、もう目的地が見えていた。


『海上要塞シャラザード』は、『ミゼットガルド』南西の孤島の一部に展開されていた。

 持ってきていた双眼鏡で見ると、青い色をした半魚人みたいなモンスターが多数うろうろしている。


 その一匹が俺の存在に気づいたらしくぎょっとした顔を浮かべると、周囲の仲間に何やら喚きだす。

 すると警報みたいなのが鳴りだして、あっという間に『海上要塞シャラザード』が、巨人おれを見物する半魚人で埋め尽くされた。


「見つかったようだな。ま、別にいいけど。よし、始めるか」


 双眼鏡から手を離すと、俺は三つ目の道具を用意する。


「始めるって、その大きな武器を使うのか? ずっと気になっていたけど、どうやって?」


 それは、俺の頭の上に乗っているカルロッテ。

 胸ポケットがないから来るなと制止したのだが嫌だと駄々をこねるので、髪の毛につかまっていろと言ったのだ。


「なぁに、簡単だ。こうやって――使うんだよっ!」


 水鉄砲ポンプアクションウォーターガンから勢いよく水が放出される。

 半魚人向こうから見れば、それこそ鉄砲水みたいなものだろう。直撃を受けた半魚人が4体程奥へと吹っ飛んでいった。


「よぉしっ、40点ゲット! ん? ちょっとマッチョな赤い奴もいるな。あいつは一体で50点にするか。ハハ、こりゃー最高のシューティングゲームだぜっ」

 

「かなめ。……なんかすごい生き生きとしてるぞ」


「こっちの世界じゃ俺は引きこもりじゃないからな――って、おぉっ! もっとでかい黒い奴来たあああっ、あいつは100点決定ッ!」


 その後、約10,000点ほど稼いだ俺は飽きてきたこともあり、『勇者の大津波ヒーロー・ビッグウェーブ』を発生させて、『海上要塞シャラザード』を壊滅させたのだった。



 ▽▲▽



「――で、どこ行きたいって?」


「“げぇせん”ってとこだ、“げぇせん”っ! ドワフリアで『海上要塞シャラザード』を撃破したとき、“げぇせん”のゲームみたいで楽しいって、かなめが言ってたからな。だから“げぇせん”」


 場所は地球の俺の部屋。

 魔王軍二つ目の拠点を破壊して、一旦地球に戻るかと転移ゲートに向かったら、カルロッテがついていくと言い出して、今の状況がある。


「ゲームセンターか。別にいいけど、遊園地みたいにカルロッテが楽しめる場所じゃないと思うぜ」


「そんなの行ってみなくちゃ分からないぞっ。だ。さあ、“げぇせん”へと出っぱ~つっ!」


「どっちっ!? つーか善は関係ないけどなっ」


 そして俺はゲームセンターへと向かう。


 足が思ったより軽い。

 二度目の外出だからだろうかと思った俺だけど、それは多分違くて――。


「げぇせん、げぇせん、何があるかな、げぇせん、げぇせん、ふんふふふ~ん♪」

 

 胸ポケットの中で、陽気に歌を唄っているカルロッテ。


 ほんの一欠ひとかけらの感情――。

 それが心の水面に落ちて波紋を広げた。



 ▽▲▽


 

「ドキドキ。こ、これから何が起こるのだ?」


 俺は指でつまんだカルロッテを前方へと突き出して、前後左右へと動かす。 

 そして、大体この辺かというところで止めた。


「これはプリクラって言って写真を撮る機械だよ。せっかくゲーセンに来たしさ、記念に。――よし、あの黒い丸カメラを見てニコって笑うんだ。撮るぞー」


「よく分からないけど、分かったぞ。――ニコッ!!」


 位置合わせ。

 それは、カルロッテを遠近法によって人間と同じサイズのように見せかけるというもの。

 カメラの画像を見る限りそれはうまくいっているようで、俺とカルロッテは、まるで人間同士のカップルのようだった。


 撮ったあと、俺は取り出し口でプリントシールを手にする。

  補正なしの二分割ということもあり、俺――そしてカルロッテはカメラで見たときよりも鮮明に映っていた。


 白い肌の上に乗る、凛々とした大きな瞳。そして綺麗な歯並びを主張するかのような唇は潤いを帯びた桃色で――俺の心をトクンと鳴らした。


 そのとき、



 ――ごめんなさい。まだ早いけど、一度だけでも会いたくて――。


 ――もう、行くね。……またそのときになったら――。 


 

 まただ。

 また既視感デジャビュが脳裏を過った。

 前回よりもはっきりと、それも愁いを帯びたような表情のカルロッテ。

 

 いや、でもこれはカルロッテじゃない……?

 なのになぜ、俺はこの幼い女の子をカルロッテだと思っているのだろうか――。


 あれ?


 そこで俺は気づいた。

 俺の胸ポケットの中にいるはずのカルロッテが、いなくなっていることに。


 「カ、カルロッテっ? おいっ、どこに行った、カルロッテッ!!」


 カルロッテは指人形よりも小さい。

 そんな奴が床をうろうろとして、もしも誰かに踏まれようものなら――。


 ゾワッと肌があわ立ったところで、近くのUFOユーホーキャッチャーから喚声が上がる。

 思わずそちらに視線を向けた俺は、仰天した。


 

 UFOキャッチャーのアームに挟まれて、子供にゲットされているカルロッテがいた。

 


 その光景を、目を見開いてスマートフォンで撮影している母親。


 ジタバタと暴れるカルロッテはやがて穴に落ちて、緩衝かんしょう材の上でポンと跳ねる。

 刹那、俺は100円玉を子供に握らせると、カルロッテを取り出し口から引っ張り出して、ゲーセンからダッシュで退避。

 母親の叫び声が聞こえたが、当然無視した。


「お前、何ゲットされてんだよっ! どうやって中に入ったか知らないけど、UFOキャッチャーで異星人が捕獲されるとか、どんなギャグだよっ!」


 走りながら俺はカルロッテに聞く。


「巨人が開けた瞬間を狙って入ったのだ。なんか楽しそうだったから。でもつかまるとは思わなかったぞ。ハハ」


 ……笑い事じゃねーぞ。


 その日、俺の部屋に戻ってパソコンでニュースを見ると、「YAFOOヤフォオオ!ニュース」のトップページにカルロッテの記事及び動画があった。

 おそらく動画を撮った母親がSNSで投稿したのち、バズって即ニュースへとなったのだろう。


 ――笑った。

 俺は、腹を抱えてすげー笑った。

 冷静に見れば、滑稽こっけいとしか言いようのないその光景に。


 すると、自分のことなのにカルロッテも笑いだす。


 その後、二人でバカみたいに笑い続けていた。

 こんなに笑ったのは、本当に久しぶりだったような気がする。

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