廻り詩 -めぐりうた-
肌黒眼鏡
第1話
博物館から出ると、外の熱気が私の身体を包み込む。非常に不愉快だ。思わず顔を顰める。
学生は夏休みということもあってか、平日にもかかわらず人がそこかしこに見える。
館内は静謐に満ちて――いることもなく、雑多な会話、シャッター音、靴音、そして音の漏れる音声ガイドの声が耳に届く。博物館、という場所のあり方自体が昔から変わろうとしている。などと、通ぶったことを考えてしまうが、これまであまりこう言った催しには私自身興味が無かった。
それがなぜ急に博物館を訪れたのかというと、興味が出たからだ。これが年をとったからなのか、あるいは通ぶりたいのかは私にもわからないが、おそらく何か私の興味を引くものがあったのだろう。しかし、年をとるとこういったことに興味が出るのはどうしてだろう。娯楽、というモノに触れること、新しいことに興味を持つことに疲れるからかもしれない。博物館や美術館などは、昔から変わらず展示を行ない、知っているもの、あるいは美術品の場合は価値もわからないような不思議なもの、そういった印象が強いからだろうか。
自分のことなのに、自信が持てないのは私の悪いところかもしれない。いや、しかし自分に絶対の自信を持っている人間がどれほどいるだろう。半分もいないのではないかと思う。もしそうであれば、私は大多数に含まれるわけで、晴れて普通の仲間入りを果たすことができる。
この時代、みんな同じことをすることが良いことで、出る杭は打たれることになっているらしいから、普通が安心だ。その普通をどうやって普通たらしめているのかは、普通の人の普通の感性による。私の感性もそこに含まれる、と思う。思いたい。
日本刀が好きな子が多いのか、刀の展示の周りには若い波が押し寄せていた。渋いなぁと感心するが、しかし何事においても興味を持つことは良いことだ。興味を失っては何もできない。
今までの私は何もなかった。休日はただ見たくもないテレビを見て、パソコンでネットサーフィン、通販を見てほしいものを買う。といっても、欲しいものがあまりないため買うことはほとんど無かった。
家の中ですべてが完結してしまうため、外に出ることは少ない。必要の無い無駄なことはしたくなかったからだ。
しかし、私は今、博物館を観覧し終え、外の空気を吸っている。
外気は変わらず湿気の多い、不快感を私に与える。
人はそんなにすぐには変わらない。今日はもう、帰って寝よう。明日は家でゆっくりしよう。
それが私には合っている。
博物館に来るのなんて、年に一度で十分だ。だから、そう。来年もまた、この場所に来ていれば良いと思う。
廻り詩 -めぐりうた- 肌黒眼鏡 @hadaguromegane
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