一 知り合い
朝、目覚ましが鳴って少年は起き上がる。学校へ行く準備をして、昨日の事は何もなかったように両親に朝の挨拶をする。
軽い食事を済ませて家を出た。今日は確かネットについての授業をやると担任が言っていたような気がしたが、少年は何も考えずに学校へと向かった。
「あー、だっりぃ……」
午前の授業中、少年はずっとだるそうな表情で教室の窓を観ていた。何度か各教科の教師に注意されたが、懲りずにずっと窓の外を見ていた。特に何もなかった。授業を受けるのがたまたま退屈な教科でつまらないだけだった。そうして昼の休み時間が過ぎ、担任の教師の授業になるという事でPCルームへと向かう。
「今日ネットマナーの授業だってさ」
女子が話をしているのを聴いて、そういえばそうだったなと思うが、別にどうでも良かった。
「……つまり、この行為に及ぶと、最悪裁判沙汰になる場合もあるが――」
全く聞いていない彼に気付いた担任は、スマホに夢中になっているのを確認して、注意する。
「坂口」
聴こえていないのかと思いながら、スマホを操作しながら時折ニヤニヤする彼の行動が気になって、つい画面をチラ見してしまったのだが――
「坂口、聴こえてるか?」
ハッとした彼に担任は言った。
「ちゃんと聴いておくんだぞ」
彼は即座にスマホの画面を消して授業を受けた。しかし、担任はこの時、生徒が何を観ていたのかを知ったのと、彼が何をしていたのかを、この時に観て知っていたのだった。
少年は午後から特にやることもなかったので、家に帰って掲示板を見ることにした。
「ただいまー」
「おかえり」
丁度玄関掃除をしていた母に玄関口で会い、そのまま話してから自分の部屋に向かう。そしてノートパソコンの電源を点ける。
「さーて、どうなってるかな?」
期待しながら今日も例の作者への張り付き行為を行い、専用スレッドに書き込む。もはや誹謗中傷しか書かれていないそのスレッドは、普通の一般人が観ても醜悪なものだった。それから少し経った時刻に、担任の成瀬は自宅で今荒れ中の自分の生徒であろう坂口が荒らしている作者への誹謗中傷を閲覧していた。
「これをあいつが書いてたのか」
チラ見したとは言え、内容がそのままだったので、自分で照合して本当にそうであると確信してから、成瀬はマリーゴールドの夢の作者にチャットを送った。
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・セイバー
ユウキさーん
・ユウキ
ん?
・セイバー
今荒れてるゲームのマリーゴールドの夢さ。晒した奴分かったんだわ。
・ユウキ
ホント!?
・セイバー
また近々会うと思うからさ。その時に実際会ってみる?
・ユウキ
え
・セイバー
いやー、僕の担当してる生徒っぽいんだよ。
・ユウキ
マジで……
・セイバー
本来ならこういう事は、個人情報がどうので色々言われちゃうんだけどさ。あいつがやってることは、もう既にユウキさんが知ってる通り最低行為なわけでさ。
・ユウキ
それってセイバーさんが結果的に退職とかにならないの?
・セイバー
んー、しかしここ最近のユウキさんと話してる内容考えると、あいつやりすぎなんだよな。なのでちょっと案があるんだよ。
ユウキさん確かゲーム制作ソフトはツールズだったよね?
・ユウキ
うん。ツーラーだよ。
・セイバー
だよな。ならちょっと今からツールズ購入するわ。
・ユウキ
何するの?
・セイバー
制作には制作でってね。
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一通りチャットを終えると、成瀬はツールズを自分で一通り試してみる。
「これなら普通に作りたくなるな」
そう確信していたが、今後自分が退職させられるかもしれないことを考えると、大きなため息が出た。
「あーあ、まだ二年しかやってないのになー……」
そう思ったが、知り合いが掲示板で誹謗中傷されてありもしないことを面白おかしく書かれるのは我慢ならなかった。ただの正義感だなと思いながら、成瀬は明日のことを考えていた。
「痛い目見てもらわないと分からないし、坂口も勉強になると思うし」
そうつぶやくと、成瀬はチャットを終えた自分のノートパソコンの電源を切り、そのまま一日が過ぎた。
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