神狼との契約
ルカ
第1話 ここは何処ですか
さて、いきなりですがここで問題発生です。つい先程まで僕は極々普通にベッドに寝そべり、ぐっすりと眠っていました。そして、たった今目を覚ますと、周りが草原になっていたのです。いえ、この規模だときっと大草原でしょう。上を見上げれば青い空、周りを見渡せば吹く風にそよぐ草たち、そして遠くを見れば視界を遮るほどに大きな木々。
本当に、ここは何処なんでしょうか。僕は無意識に夢遊病でも患っていたのでしょうか。
「……っ、ぶ、何ですか。この…本、ですね」
急に強風が吹き、その風に乗り飛んできた本が狙ったかのように僕の顔に直撃しました。というか、誰もいないのにこの喋り方はめんどくさいですね。戻しましょう。
「んだ、コレ…契約、獣?ファンタジーかよ」
ファンタジーだと思うし、只の子供向けのような本だと思ったから、中身を開いて読んでみる。パラパラと捲って読んでみると、どうやら
「…ま、いいや。とりあえず人のいそうな方に行くか…」
ひとまず一番最初の目的を決めてから方向を考えていたそのとき、ある方向で花火が上がった。祭りか何かやっているのかもしれないし、その方角に向かうことにした。
歩いて数時間程度、ようやく花火の上がった場所に辿り着いた。ここは人も栄えていて情報を集めるのに適しているように思える。とりあえず近くを歩いていた若い男性に聞いてみることにした。
「あの、すみません。この騒ぎは一体どうしたのですか?」
声をかけた男性は俺をじっと見ると、「その格好からして、兄ちゃん。よそもんだな?」と言った。それは間違いではないので素直に頷く。するとそれを確認してから話始めた。
「コレはな、魔物に対する軍の学校の入学式なんだ。そして、これから皆お待ちかねのスカウトが始まる」
「…スカウト?」
「ああ。軍の精鋭部隊隊長に選ばれる名誉だ。しかも入学費はタダ。皆コレを狙って集まっているのも同然だ」
そこまで聞いてから教えてくれた男性に感謝を告げてから更に騒ぎが大きい方へと向かう。
さっきの話からも多く情報を得ることが出来た。まず俺の格好、つまり学校の制服はこの辺りでは見ないこと。この世界には『魔物』がいること。それに対する軍があること。そして、入学式には精鋭部隊隊長自らが見てスカウトする行事があり、この騒ぎは皆それを狙っているから。さっきぶつかってきたあの本、『契約獣との契約方法』という本も魔物に対するモノなのかもしれないな。
「今年の軍学校スカウトメンバーは、濃い紫の髪、アメジストの瞳、そしてこの辺りでは見かけない服装をしている男性の、君だ!」
ふーん、発表ってこんな風にするんだな特徴言ってるけど、最後に君、なんてあやふやだと誰だか分からないだろうに。と、どこか他人事のように通り過ぎていると、軍服を着た若い、子供にしか見えないような人に腕を掴まれた。
「……え?」
「お前だと言っていただろう。名誉なことなのに何故喜ばない」
え、今年のスカウト俺だったの?何で?特に『魔力』とかも持ってないのに。俺を選ぶくらいだったら他にももっといい人選があったと思うんだけど。というか、名誉とか知らないし、喜ぶも何も、どんなものかすら分かってねえし。
「少し、耐えろ」
子供特有の高くどこか拙い発音にそう言われたあと、すぐに目の前がぐにゃりと歪んだ。その歪みは見ているだけで気持ち悪くなって吐きそうだったから目を瞑ることにした。目を瞑って数秒間、そこで「もういいぞ」と声がかかった。目を開くとそこは何処か、人が多く集まる室内だった。沢山の目が俺を見詰めて、睨み付けられているかのような錯覚に陥る。頭を軽く振って改めて辺りを見渡すと、そこにいる人は皆幼い顔立ちで軍服を身に纏っていた。深緑を基調とし、所々に赤や黄色のラインが入った軍服。
「まさか、ここ……軍学校、ですか?」
「まだ気付いていなかったのか?これから契約獣との契約を始めるんだ。お前も着いてこい」
ここで暴れても何も出来ないだろうし、何より暴れる理由がないため大人しく着いていく。軍学校と気付き建物を見ると、全て淡いベージュに壁が塗られていた。
しばらく歩くと講堂のような場所に辿り着いた。そこには体格がよく、モサモサとした髭の生えている男がいた。もしかしなくても軍学校の講師か軍人だろう。男は全体を軽く見渡してからマイクに電源をいれた。
「これより、契約の儀を開始する!契約については各自家で学んだ通りに行うように!では始め!」
その言葉を始めにどんどん周りで淡い光が発生し、ぶつぶつ何かを呟くような声に包まれた。と、思っていたら喜ぶような歓声も聞こえ始めてきた。
え?俺何も知らないんですけど。契約なんて家でも学校でも学ばねえよ。精々学ぶとしたら漫画かアニメの世界からだ。
「どうした。契約しないのか」
「へ?あ…いや、そもそも契約の仕方というものを知らないんですが」
それにここまで案内してきた、所謂案内人に目を見張られた。
……いや、そんな絶滅危惧種を見たかのような顔をしなくても…。
そんなやり取りをしていたら辺りは既に歓声のみになっていた。その声に周りを観察してみると、先程までは居なかった生物がそれぞれ一人には一匹いる。動物から精霊のようなもの、虫のようなものや、植物に顔が書かれたようなモノまで、実に様々だ。
「……どうした。お前は…スカウトだな。契約の儀を早く行え」
ぷっちーん、何だコイツ。上から目線だな。この世界にいる誰もが魔法だの何だの知ってるかのように言いやがって。
「おあいにく様ですが、筋肉さん。僕はその契約なんたら、なんてものは知りませんので、筋肉さん自ら、僕に教えてくださいませんか?スカウトを間違えたなんて……軍の恥にしかならないでしょう?」
ニッコリスマイルで告げてやる。『軍の恥』何て言ったら教えずにはいられないだろう。───さあ、どうする?
「…っ、そ、それはすまなかった。契約は呪文を唱えるんだ。『
ふーん、要は自分の力となれってことだろ?人間のエゴだな。力と頂点を求める、人間の強欲。なら、『コレ』で出ようが出まいが、そこまでだ。
「──御神の使いよ、我は汝の存在を望み、共に協力し合うことを求む。今我に、姿を現し給え」
多少アレンジしてみた。これででてくるか?
『────ククク、中々面白い。お前の
「……
『いかにも。お前の名は?』
「僕は、……アキラ」
『アキラ、だな。──契約完了』
その低く響くようでどこか艶のある声が告げたとき、目の前に少し跳ねた銀色の髪、透き通ったルビーのような瞳を持った男前が現れた。服装は現代のようだけれど、黒一色。Vネックシャツにジーンズ、ミリタリーブーツに、ロングコート。全てが黒一色だ。これは、女が見ただけでも惚れそうな顔だな。けれど、その男性には人間にはあるはずのない、獣の耳と尻尾がついていたのだ。
「なっ……い、狗神様!?」
焦ったような声の方向に振り向くと筋肉さんが顔を真っ青にしていた。…いや、筋肉さんだけでなく周りの奴らも顔を真っ青にして汗を流し、怯えたような表情をしていた。『狗神』って……もしかしてこの人のことか?耳と尻尾生えてるし。
「周りにはそう呼ばれるが、正しくは狼、神狼だ。───さて、主。改めて、よろしく頼むぞ」
そう言ってこの人は俺の手を取って、手の甲にキスをした。その声で気付いた。この人は、ロウガだ。っとなると、この人が俺の契約獣?他のやつは皆ヒトガタじゃないのに、何故この人だけ?
俺のその疑問に気付いたのか、ロウガは俺に向かって軽く微笑んだ。
「主。主は呪文を変えただろう?俺はそれに興味を持った。だからこうして今ここにいる。俺がヒトガタなのは……他の奴よりも力があるからだな」
…俺が筋肉さん通りの呪文を唱えてたらきっとロウガは今こうして俺の前には居なかったのだろう。───呪文変えといて良かった。
「そこの!え~っと、狗神様を呼び出した奴!軍学校からスカウトしに来たぜ!」
は……?またワケわからんのが現れた……。
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