(拓馬編)
メッセージ4 雨にぬれた桜草
休日のある日僕はまたあの人に逢いたくて、再びこの街を訪れた。そしてあの人のぬくもりを探して僕は歩いていた。
あいにくの曇り空、雲行きがあやしい。そして突然の雨。僕はショーウインドウの軒下で雨宿りをしていた。すると通りに向こう側に見覚えのある姿が・・・
(もしやあの人では!?)
あの時会った雰囲気とは違う感じがしたが、直感であの人と信じこんだ。
いつしか雨も強く降り始め、その人も淡い桜色の雨傘を差し歩き続ける。
僕は傘が無い事も忘れ、冷たい雨に打たれながらも、その人と並行して反対の歩道を歩き続けた。
もうどれくらい歩いたのだろう?その人は店に入るわけでもなく、バスに乗るわけでもなく、只目的の場所まで淡々と歩く。家路を急ぐ為なのか、人々が行き交う中で少し早歩きで、歩き続けていた。
僕はもう雨に濡れる事も、人の目も気にならない。ただ、雑踏の中で一輪の淡い桜草だけを見失わぬよう、今の時間が永遠に続いていくような錯覚さえ覚えながらもその人を追い続けた。
赤信号の交差点で僕は立ち止まる。
(その人が近づいて来ればいいな)
そんな事を思いながらも、ふと目を離した瞬間、並行に歩いているはずのその人の姿を見失ってしまった!いや違う、よく見れば交差点をこちら側に渡ってくる、その人の姿があった。
僕の胸は張り裂けそうに、鼓動し始めた。
今僕の横にその人が立ち止まった。花びらのような傘をくるくると回しながら、その人は信号を待ち続ける。
いつの間にか激しかった雨も止み、天空から光がこぼれて来た、その人は桜色の傘を折りたたみその素顔が光に照らされた瞬間に声にならない僕の心の叫びが響いた。
(あの人じゃない・・・)
あの時出会ったあの人とはまったくの別人であった。
やがて歩行信号が青に変り、人と車の流れが再び始まる。
立ち止まっている僕を追い越して人の波が行き交う中で、勘違いの淡い花びらがどんどんと遠ざかって消えていった。
(そんな簡単に逢えるはずないよね?あの時のあの人は今、何処にいるんだろうか・・・)
もう一度会いたい・・・そう強く祈った瞬間に東の空に虹が輝いていた。
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