第6話


「直、これつくえに持っていってくれない?」

「はーい。」


今日の夜ご飯は焼き魚。

いい香りにお腹がぐーっと音を立てる。


お母さんと向かい合わせで座って、

せーので頂きますをして。


時刻は午後6時頃。

外はまだ少し明るくて、高校生だろうか。

制服姿の人たちが固まって歩いている。


「にぎやかねえ。」


開けた窓から聞こえてくる声に、

お母さんは少し微笑んで。


・・・そういえば、お姉さんはどこの高校なんだろう。


スカートに文字が印刷してあって、

でも「高校」の文字しか僕には読めなくて。


・・たしか。


「お母さん。」

「ん?」

「竹の下に立つっていう感じがついてて、その後が・・・さんずいにの右側に、

良っていう字がついてるんだけどさ、」

「うんうん。」


お母さんは斜め上を見ながら、

僕が言った漢字を組み立てる。


「そんな漢字の高校ってある?」


自分の左手を指でなぞりながら、

お母さんは少し考えて、そしてポンっと手を叩いた。


「ああ、笠浪高校じゃない?」

「かさなみ?」

「そう、かさなみ。女子高なんだけどね、すごく頭がいいのよ。」

「そうなんだ。」


お姉さん、頭がいいんだなあ。

でも確かにそんな感じもする。


「卒業した生徒も、大学もみんなすごく頭のいい所に行っててね。」

「へえ・・。」

「本当にもったいないわよねえ。」

「もったいない?」


聞き返した僕に、お母さんはきょとんとした顔をする。


「え?先生か誰かから笠浪高校の話聞いたんじゃないの?」

「ううん。・・なんかすれ違ったお姉さんがそうやって書いてある制服を着てて、

まだ知らない漢字だなって覚えてたの。」


なんとなく少し嘘ををついてしまった。

しかし、そんな事などすぐに忘れてしまって。


「何言ってるのよ、そんなはずないわ。」

「え?」


「笠浪高校、確か数年前に廃校になってるもの。」


「・・・ほんとに?」


嘘ついてどうするのよ、とお母さんは笑うけど、

僕は全然笑えなくて。


だってお姉さんがその制服を着てるんだ。

今日だってそのお姉さんと話してきたんだ。


どういう事?お姉さんは高校生じゃないの?

どうしてもう無い学校の制服を着てるの?


小さい頭で考えてみるけど、

答えなんて出るはずなくて。


「ほら、覚めるから早く食べなさい。」


そんなお母さんの言葉で現実に戻って、

無意識のうちに止まってしまっていた箸を動かした。



・・・どういう事だろう。

お姉さんは、何歳なの?

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