魔法使い、始め“させられ”ました

すかいふぁーむ

プロローグ

 今日も今日とて特にあてもなく街へ出てきた。ただ人が慌ただしく流れているのを、ぼんやりと眺めるだけのために。

 ふと、一際目を引く美女を見つける。身体のラインをあえて魅せる赤いワンピースに、黒い艶のある長い髪。妖艶な雰囲気を纏う美女が、こちらに向かって歩いてくるように思える。


「そんなわけないな」


 偶然こちらの方向に用があるだけだろう。そう思い、視線を外す。

 だが、その美女は俺に声をかけてきた。間違いなく、俺に。


「あなた、魔法使いになってみない?」

「はい!……はい?」


 美女に声をかけられ、何も考えずに返事をしてしまう。魔法使いってなんだ?


「あら、説得の必要もないなんて。ありがたい限りね」


 しまった。少しくらい渋っていたらお姉さんにいいことをしてもらえたかもしれなかった!?


「名前を聞いてもいいかしら?」


 ナンパのような雰囲気にちょっとテンションが高まる。言ってることはちょっとあれな人だが、可愛いならなんでもいい!


「新井陽太です」

「ちなみにだけど、あなた、童貞よね?」

「え……?」


 突然美女の口から童貞などと言う単語が聞こえて言葉を失う。決して図星をつかれたからではない。決して……。


「よかったわ。見込み通りね」


 表情から察せられてしまったらしい。

 そして、あまり深く考えたくはないが、見た目ですでにそう捉えられていたことも発覚する。心が折れそうだ……。

 でもこれ、童貞キラーのお姉さんがあわよくばお相手してくれるのでは……?


「ああ、ごめんなさいね。でも安心して?あなたの魔法使いの素質はこれで揺ぎ無いものになったわ」

「あれか。魔法使いってやっぱり三十年貫くとなれるとか……」

「そういうわけじゃないわ。でも、そうね。全く関係ないわけではないかしら」

「そうなの?」

「性欲はため込めばため込むほど魔法使いにふさわしい存在になるわ。多分だけど、ね?」


 俺、自家発電は盛んだけどいいんだろうか。


「さて、今すぐしておきたいこととか、未練とかあるかしら?」

「この流れでそう言われると、一回くらい経験しておきたかったなあとしか言えない」

「あら、それはだめよ?あなたは大事な魔法使いなんだから」


 一歩こちらに近づき、こちらを見上げるようにいたずらな表情を見せる。思わずどきっとする仕草に期待が高まる。同時に慣れない状況に言葉を失っていると、話を進められる。


「まあ、帰って来られないというわけでもないわ。あとはあなた次第。少し急だけど、ついてきてね?」


 不意に美女の姿が掠れ、視界から外れる。気付くと美女と俺の距離はゼロに。別に甘い話ではない。腹部に強い衝撃が遅れてやってくる……俺はそこで、意識を失った。


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