ハルミ=ムクは夢みるアンドロイド

いすみ 静江

第1話 メイド・アンドロイド<現→異>

 ハルミ=ムクの前で、若い男が目を止めた。


<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>


 ポロロン……。


<♪ ワタシヲ・ツレテイッテクダサイ>

<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>


 ポロロ……。


 彼女は、プラチナ通りのウインドウで、夢みるように歌っている。


「ピンクのメイド服に薄ピンクの瓶底メガネが目立つな……。くりっとした赤い目に赤毛もさらさらとしていい」


 土方玲ひじかた れいは、少し伸びたアゴヒゲに手をやり、にやにやが止まらない。


「どことなく、うちの妻? 美舞みまい殿、そして、娘ちゃんのむくちゃんに似ている……。彼女はいいなあ」


 玲の一声で、忙しい土方家で働くこととなった。


 ◇◇◇


<♪ ワタシハ・カラダガ・ジョウブデス>

「はは。頼もしいなあ」


 我が家は、可愛い女の子、むくが生まれたばかり。


「ばーぶっ」

<ヨシヨシ・オジョウサマ>


 ハルミ=ムクが、むくを抱っこして居間に顔を出した。


 むくは、瞳が右は美舞似の深い碧で、左は玲似の茶だ。

 さらさらの翠髪すいはつを前髪ちょんちょりんに結って、絹をまとった肌も愛おしい。

 ベビーウエアは、水玉が似合う。

 ビューティー赤ちゃんだ。


「むくちゃん、おはよう」

「おはようだね、むくちゃん。まだおねむかな?」


 両親の玲と美舞は、ソファーでほのぼのとむくを見つめている。


 美舞は、とびきりの美少女で、長い翠髪を結い上げ、黒ぶちメガネの奥に、左目が吸い込まれそうな黒なのに対して右が海の様に深い碧眼、小柄で活発だ。

 ミジンボーダーを好んで着る。

 夫にシマシマ仮面と呼ばれて喧嘩になったこともある。


 玲は、さらさらの茶の前髪長めのショートに両の瞳も茶で、すらっとし、闊達かったつとしている。

 妻にカラスみたいと言われる程、全身真っ黒なコーディネイトを何と言われようとも着る。


 朝晩、小さな団地の玄関でキスをし、ハルミ=ムクに見られて照れる新婚さん気分は抜けないようだ。

 しかし、イチャイチャばかりしてはいられない。

 むくは、元気!

 ハルミ=ムクが、むくを居間のカーペットに優しく座らせたとたん、激しいハイハイが始まる。

 あちらこちらにぶつかりそうになるのだ。


「はうはう、ぶーぶー。てってっ」


 喃語なんごも張り切って進む進む。

 すると、ハルミ=ムクが、さささっと助けに行く。


<オジョウサマ・テーブルハ・キケンデス>

「ふんぎゃ! ほんぎゃ!」


 結局、まるテーブルにぶつかってしまう。

 慌てて、ハルミ=ムクが抱き上げる。


<ゴメンナサイ……>


 ヅーッ。

 ヅーッ。


 ハルミ=ムクは、失敗をすると、メイド服に合わせたかのようにピンクに目が光る。

 頭を逆さに抱っこする、ハルミ=ムクに美舞はがっかり。

 編み物をする手を休めた。


「ねえ、玲、買い物間違えたんじゃない?」

「ははは。そう言うと、ハルミ=ムクが、傷付くだろう。目がピンクになって泣いているよ」

「アンドロイドは泣きませんよ。だって、こんなことばかりなんだもの。ハルミ=ムクは、欠陥品よ。選んだのは、玲でしょう」


 ドン!


 滅多に声を荒げない玲がテーブルを叩いて立ち上がった。


「俺は、何も悪いことしていない……!」


 すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。

 皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばる。


 グアララララララ……。

 ドドーン……。


「……ここはどこだ?」


 暗闇の中、第一声は、玲だった。

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