恐怖のエーデルワイス

 今日の音楽の授業は何かな? こないだのたいこはひどかった。バチが手汗ですべってさりなちゃんに当たって大泣きされた。はあ……。おっと、先生だ。

「今日はリコーダーのテストをしま~す。曲はエーデルワイスです」

 マジか、テストかよ。しかもリコーダーだって? やばい、汗がどんどん出てきた。指先が汗で光ってる。

「じゃあ、相原君からいこうか」

 ピーポポーピーポポー ピーポピポポピーポー。

 しーんと静まりかえった教室に、相原君の笛の音だけが流れる。みんなが相原君を見てる。緊張するぅ。おしっこ出そう。次は伊藤さんか。いつ呼ばれるんだろう? あ~、嫌だ待ってる時間。Tシャツで何度ふいても、手汗がどんどん出てくる。もうほとんどの人が呼ばれたんだけど。先生がチラッと時計を見た。もう時間がない。このまま時間切れかな? ラッキ~。

「じゃあ最後、朝田君どうぞ」

 ウソだろ! みんながいっせいにぼくを見る。

「はっ、はい」

 あわてて袋からリコーダーを出す。手汗ですべって黒いリコーダーがコロコロ転がる。

「おっとっと」

 つかもうとするとまた汗ですべって転がっていく。お前はうなぎか? 恥ずかしくてボッと顔が赤くなる。

「ふぃっふぃっふぃっ」

 なんで? 音が出ない。

「ピィーヒョーロ~。ふぃっふぃっふぃっ」

 みんなこっち見ないで! 緊張するから! 先生を見ると真顔。こわすぎる。もうダメだ。リコーダーを見ると、汗がキラキラ光って目立ってる。

「ピ~ピ、ピヒョロピ~ピ~。ふぃっふぃっふぃっ」

「ぷっ。あはははは」

 みんながぼくの下手な笛に笑ってる。最悪。手の汗が無ければもっとうまく吹けるんだよ!

 キーンコーンカーンコーン。

 終わり……?

「時間なんで今日はここまで。朝田君には次の授業でまた吹いてもらうから。それまでに練習しておいてね」

 嫌だ! もうこんな恥ずかしいのは嫌だよ。


「早く着替えて外いこうぜ」

 次は体育か。今日は何をやるんだろ? 校庭に出たら、鉄棒の前にみんながずらっと座ってる。鉄棒はダメだよ、手の汗がべったり付いちゃう。

「今日は逆上がりをやりま~す」

 先生がくるっと逆上がりした。くるくる回って何が楽しいんだよ、ハムスターかよ。

「笛が鳴ったら逆上がりしてください。できたら一番後ろに座って。じゃあいくぞ」

ピーッ。

 笛が鳴って、逆上がりが始まった。逆上がりはできるけど、次の人に手の汗を残したくない。後ろは誰かな? ふりかえると、つぶらな瞳のみおちゃんと目が合った。

「女子には嫌われたくない!」

 手のひらをギュギュっとズボンにこすりつける。

「汗止まって」

 ピーッ。順番が近づいてくる。

 ピーッ。手から汗が増えていく。

 ピーッ。汗が止まらない!

 汗を鉄棒に残さないようにしないと。鉄棒を指先だけで軽くにぎる。そして足で地面をたたいて体を持ち上げる。

……ドスン!

 痛って~。指がすっぽぬけてずっけこけた。みんなが笑ってる。

「しっかり鉄棒握らなきゃ。ギュッと握ってみな」

 先生やめて! ああ、もう鉄棒に手汗がべったり付いた。早く終わりにしよう。急いでくるっと逆上がりして、列の後ろに走って戻る。

「やだ、きたない!」

 嫌な予感がしてふり返ると、みおちゃんが手についた土をパンパンはらってる。

「先生、鉄棒に土がついて汚れてます」

 手のひらを見ると、土がべったり付いてる。こけたときに手のひらに土がくっついたんだ。みおちゃん、それぼくのせいだ。ごめん。赤白棒をぐっと深くかぶって顔を隠した。

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