2.企画の問題点の整理

 最初に、当企画の内容説明を再掲します。


**ここから**


 どんなに筆達者な方でも、推敲なしの一発ドンで完璧に書ききれるってことはまずないと思います。書き終えたものを見回しながら、読みやすく書けているかとか、狙い通りに表現できているかとか、誤字脱字がないかとか、何度も見直しをしてブラッシュアップしていくのが普通のプロセスですよね。しかし、十分に磨き上げたつもりの自信作であるにもかかわらず、評価がそれに伴わないってことがよくあるわけです。

 自分自身では大傑作だと思っていても、評価するのはあくまで読者。そして、読者の声というのはなかなか聞こえてこないんです。なので自主企画においても、相互に読み合ってブラッシュアップしましょうという企画がよく開催されています。


 ところがどっこい。読み合いというのは、結局書き手同士の交流。作品を生み出す苦労を知っている者同士だと、共感や同情が先に立って評価が甘口になるんです。それに、批評は自分にも返ってきます。自信作にけちをつけられたくないので、どうしても相手のいいところを探してそれを持ち上げようとしてしまいます。

 高評価してもらえるのは確かにうれしいんですが、よいしょは自作のレベルアップには役に立ちません。それよりも、足りないところ、要改善のところを端的に指摘してもらった方がずっとありがたいんですよね。


 もう一つ、これまでのブラッシュアップ企画に欠けていた視点があるなあと。従来の企画は改善提案で止まっていて、それを受けて文章を改訂するというプロセスがよく見えないんですよ。書き手のほとんどは「今後の参考にさせていただきます」で終わり。企画から間が空くと、読者だけでなく書き手すら、どこをどう直したのか思い出せなくなるんです。次の章を書く時に以前の指摘をすっかり忘れ、またぞろ悪い癖が出る。それでは、指摘を活かせたことにならないですよね。

 それに。改善提案を受けて改稿を重ねると、多くの場合改稿前の文章は消されてしまいます。最終稿が一番いいもので、それ以前のものにはあまり意味がない? うーん、本当にそうでしょうか。いろいろ直したけど、やっぱり初稿の方がよかったかも。そんなこともあるんじゃないかと。


 ということで。ちょっとした実験企画を立ててみようと思います。どのくらい参加者がいるか分かりませんので、あくまでも試行、お試しという形で実施します。企画の中身自体は単純なんですが、説明を熟読の上ご参加ください。


 企画の内容と参加条件は以下の通りです。


1)千〜二千字程度の一話読み切り短編限定。エントリーは、お一人一作のみ。詩を除くオールジャンルオーケー。


 作品は書き下ろしでも既存のものでもかまいませんが、長編の一部を切り出すという断片はダメ。必ず、単独で読み切れる作品でご参加ください。短編集からエントリーさせる場合はその話のみを切り出して、別作品にしてください。


2)タイトルと内容は自由ですが、デフォルトで『第一話』となっているところを『初稿』と書き換えてエントリーしてください。


 例をテンプレートとしてアップしましたので、それを参考にしていただければ。


3)誤字脱字のチェックや文章の整形など、自力でできるテクニカルな推敲はしっかり済ませておいてください。そこがいい加減なままだと、改善提案が入口レベルから先に進まない恐れがあります。


 文頭を字下げしていない、改行の過不足が目立つ、文末処理がぞんざい、半角文字を多用しているなど、一般的に指摘を受けやすい部分は、あらかじめ整えておいた方が好印象になると思います。

 また、初稿はアップ後に変更できません。事前によくチェックした上でアップしてください。


4)エントリーする作品には、必ず『公開ブラッシュアップ企画用』というタグをつけてください。ノイズ除去のため、タグ付けにどうかご協力ください。


5)当企画の性格上、他の自主企画もしくは公式コンテストとの重複エントリーはご遠慮ください。実施期間中に多重エントリーされたものは、ノイズとみなします。


 ここまでが最初のオーダーです。基本的には、テンプレートの様式に合わせて読み切り掌編をアップしてねーというだけです。難しいことは何もないかと。


 こんなにゆるゆるなのに条件を無視する人には、個別に強い警告を出します。何万字もある長編をぶっ込んできたり、読み切りになっていなかったり、一人で何作もアップしたり、書式やタグ指定を無視して放り込む人には、警告もしくは通報以外の一切のアクションを行いません。


 続いてエントリー作品への改善提案を募集しますが、エントリーした書き手さんには他作を読んでコメントする義務を課しません。基本、エントリーだけで結構です。本企画の趣旨は、相互読み合いではありません。


6)エントリー作品に対する改善提案を行います。


 主催者のわたしは、参加条件がきちんと満たされた作品を精読し、応援コメント欄で作品の改善提案をいたします。もちろん、わたし以外の方の提案も大いに歓迎します。

 ただし! 改善提案してくださる方には必ず守ってほしいことがあります。提案にはプラス評価を一切含めないでください。初稿に対し、ここがいいここが素晴らしいという評価は禁止します。コメントは、ここを改善した方がいいよという改善提案に限定します。それ以外の感想や評価はご遠慮ください。


 誤解のないよう申し添えますが、根拠なくただけなすだけのコメントは厳禁です。おもしろくないとか、つまらんとか、バカかとか、そういう罵倒は改善提案ではありません。

 もう少し心情をしっかり書き込んだ方がいいとか、前後関係が分かりにくいとか、ここは別な表現にした方がいいとか。書き手が作品をブラッシュアップする際、参考にしてもらえるような提案に限定します。指摘ではなく、提案とすることにくれぐれもご留意ください。

 また、改善提案してくださる方は、極力代案や修正例を示さないでください。シビアな改稿作業に自力で挑むきっかけにしてもらう、そういう意識で提案をお願いいたします。


 作品の掲示と、それを受けての改善提案。ここまでは他のブラッシュアップ企画でもあると思うんですが、本企画では参加された書き手さんにもう一つ義務を課します。


7)エントリーされた方は、改善提案を精査、検討した上で、企画開催期間中に初稿とは別に改訂版を必ずアップしてください。新しいエピソードを追加し、『第二話』のところを『改訂稿』に書き換えてアップしてください。


 企画開催期間中は、改訂稿にどれだけ手を入れてもおっけー。びっしり直してからのアップでなくとも、少しずつ書き直す形でもかまいません。ただし、修正は改訂稿にのみ行い、初稿には絶対に手をつけないでください。ブラッシュアップ作業の経過と結果、効果を、書き手と読者双方が検証可能な形で共有する。それが、本企画の狙いだからです。改訂の経過を記録として残されたい方は第三稿、第四稿として暫定改訂版を追加していってもかまいません。

 そして、改善提案はあくまでも提案に過ぎません。エントリーされた方はその妥当性や効果をよく考えてください。改訂の必要がないという判断ならば、初稿をそのまま最終稿とする選択肢もあるんです。書き手としての主体性を安易に取り崩さないようお願いします。

 初稿の改善提案に対する返答義務はありません。提案をどうこなしたか、検討結果を改訂稿で見せてほしいということになります。


 参加作品は、習作という位置付けになると思います。ですので、企画終了後に企画から外す、初稿を含めて消去、再改訂、改作するなどは一向にかまいません。企画自体は開催記録として開催期間終了後も残しますが、アーカイブとしての意味は持たせません。企画の賞味期限は、あくまでも企画開催期間中のみということになります。


 ここまでが、企画の具体的内容および参加条件です。


 主催者であるわたしは、企画催行中はエントリーされた作品の初稿にも改訂稿にも一切の公的評価(作品や著者のフォロー、レビューなど)をいたしません。改訂稿への再提案も、余力の関係でおそらくできないと思います。あくまでもブラッシュアップ体験のお手伝いをするという観点で、初稿への改善提案に注力します。時間的にも体力的にもそれが限界だと思うので。

 ただ他の書き手さんや読者さんは、積極的に改訂稿への追加助言や評価(こちらは、もちろんプラス評価オーケー)をしてくださると助かります。それによって参加された方の経験値がより一層上がり、筆力アップにつなげてもらえると思うからです。


 なお、わたしはどこにでも転がっている普通のおっさんです。文学的なセンスが優れているわけでも、執筆・編集系の仕事をしているわけでもありません。そういうごくごく普通のおっさんの目から見ての改善提案になりますことを、あらかじめご了承ください。

 また、こうした改稿作業に慣れている方は、作品をアップするメリットがあまりないかもしれません。文章を編み慣れていない方に改善点を伝えるだけでなく、それをすぐ改稿につなげる機会を作ること。改稿作業に心身を慣らしてもらうこと。それが企画の主な目的だからです。


 どれくらいの方が参加してくださるか分からないので、催行期間を一ヶ月にしておきますが、エントリーされる方が多い場合は期間を延長します。

 ものすごく参加条件のゆるい企画ですが、初稿がいじれないこと、初稿へのポジティブ評価がなく改善提案しか得られないこと、改訂稿アップの義務があることが、心理的な参加障壁になるかもしれません。まあ……そこらへんはやってみて、ですね。


 企画内容や参加条件に不明な点があれば、近況ノートでお問い合わせください。ご意見やご提案も歓迎いたします。



 長くなったので、企画内容をコンパクトにまとめておきます。


1)千〜二千字程度の一話読み切り短編限定。エントリーは、お一人一作のみ。詩を除くオールジャンルオーケー。単独で読み切れる作品であることが必須条件。


2)タイトルと内容は自由。デフォルトで『第一話』となっているところを『初稿』と書き換え、『公開ブラッシュアップ企画用』というタグを付けてエントリーする。初稿はアップ後に変更できない。また、他の企画やコンテストとの重複エントリーは不可。


3)エントリーされた作品に、応援コメント欄を用いて改善提案を行う。提案には賞賛、非難を含めず、改善点の提示のみにとどめる。


4)エントリーされた方は改善提案を精査し、企画期間内に初稿とは別に、『第二話』を『改訂稿』と書き換えてアップする。


 最後に、本企画の試行目的をまとめておきます。


1)改善提案されることに心身を馴らす。提案をこなした上で、期限内に改稿につなげるタフさを鍛える。


2)改稿前の文章を残し、改稿後の文章と比較することで、自分の文章の癖や欠点をしっかり把握する。また改稿の効果を、参加者だけでなく読者にも実感してもらう。


3)文章の改善には、数式のような決まった解はない。提案を丸呑みしたり全拒絶するのではなく、提案の内容や妥当性を精査して自分流に消化する力を鍛える。


 おもしろそうだなと思われた方は、ぜひチャレンジしてみてください。


**ここまで**


 反省点は山ほどありますが、主要な部分をいくつか整理しておきます。


1)説明文が長大でくどい

 いくらなんでも、企画の説明文が長すぎましたね。企画が、公開ブラッシュアップというきつい内容であるため、そこにノイズが流れ込むとやばいことになるだろうなあと思って二重三重に予防線を張ったんですが、やりすぎました。

 企画をオープンしてすぐ、運営さんの方から自主企画エントリー方式の改善アナウンスがあり、いわゆるランダム撃ちのノイズが目に見えて減りました。それなら、もっとシンプルな説明で済んだなあと。後の祭りです。今後新たな企画を考える時に今回の教訓を活かすことにします。


2)プラス評価や感想の禁止が、改善提案を縛ってしまった

 作品のプラス評価をせず、改善した方がいいと思った点のみを提案という形でコメントする。これね、めちゃめちゃハードなんです。なぜか? プラス評価の部分との対比、感想込みでの展開ができないんですよね。○○はいいんだけど、ここがちょっと……そういう言い回しができません。

 人間、誰しも自分をネガ評価されたくはないので、おまえのここが悪いと弱点だけを指摘されると、次の瞬間ハリネズミになってしまいます。なので、多くの読み合い企画では「ほめ」9に「でも」1くらいの比率かなあと。ポジ評価の禁止でそれをイーブンくらいに持って行きたかったんですが、縛りがきつ過ぎて、提案が尖って感じられてしまったかもしれません。


3)提案と批判、指摘の差が不鮮明

 完全に、わたしの説明不足でしたね。

 批判は、瑕疵があることを主張し、論を展開すること。そこには本来ネガやポジの概念はなく、批判そのものの妥当性も含めて論旨が当を得ているかどうかしか意味を持たないんです。でも、批判はもっとも敬遠されますよね。批判が人格否定に直結するよう感じられてしまうからでしょうか。

 提案は、あくまでも建設的なものです。作品のブラッシュアップに結びつけてもらうためですから、ネガを投げつけて終わりでは意味がないんです。

 じゃあ、指摘は? 指摘は、事実と合致しているかどうかを基準にして誤謬を抽出すること。合っているかどうかだけですから、そこには感情が入りません。


『君が駅に来ていないのを、僕はどうしても許せなかった』


 という文があったとします。


 改善提案の場合。

 ◎時制の逆転が含まれていて、すっきりしません。表現の見直しをお勧めします。


 指摘の場合。

 ◎君が……の部分と、僕は……の部分の時間が合っていない。


 批判の場合。

 ◎あなたの文章は時制や格の扱いがぞんざい過ぎる。推敲って、誤字脱字のチェックだけじゃないよ。


 上の三つの文に感じた温度差が、それぞれ受け手にとっての提案、指摘、批判の差。でも、主旨は三者間で大きな違いはないはずです。それなら、受け手はコメンテーターの文章から主旨を抽出して使う必要があるんですが……。それを企画説明でうまく書き切れなかったなあと。改善提案者と書き手の間をうまくブリッジできるような説明が不足していたのは、大きな反省点です。


4)具体的な改善策提示を禁止したこと

 これは提案者案の丸呑みを防ぐために設定したんですが、やはり具体策なしはきつかったですね。指摘と提案の差を不鮮明にしてしまったもっとも大きな元凶が、この点にあったように思います。



 他にもいろいろ反省点があるんですが、あくまでも実験企画なので、結果の検証は時間をかけてゆっくり行いたいと思います。


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