第2話

「茜、おはよー。」

「おはよ。」


友達と挨拶を交わして席につく。


・・・学校は好きではない。

かと言って別に嫌いという訳では無いが。


友達は普通にいるし、成績も中の上くらい。

特に困っていることもないし、当たり障りのない毎日を送っている。


・・・ただ、教室は酷く息苦しい。

少しでも気を抜けば何かに取り込まれてしまいそうで、とても、怖い。



「茜ー、今日古典当たる?」

「多分。私からだと思う」

「うっそー!じゃあ私も当たるかもじゃん!」


友達と会話をしながらふと前を向けば、男子の塊の中で机に突っ伏して眠る橘くんの背中が目に入った。


あの雨の日から1週間。

特に学校では関わりのない私たちが話す機会はなく、逃げてしまった気まずさはとっくに薄れていた。


「なに?橘くん?かっこいいよね!」

「え?・・・あー、そう?」

「かっこいいよ!ほかの男子と違って騒がないし、クールなイケメンって感じ!あ、でも中澤くんもかっこいいよね〜。」

「へー・・・。」


そういう話には興味が無いけど、

それを悟られないように笑って頷く。


・・・橘くんは、少し不思議な雰囲気がある人だ。

群れてるようで群れてない、というか。


なんて、そんな事を語れるほど関わったことはないのだけれど。





「あー、雨降っちゃってる。」


隣で友人のはるかが顔をしかめる。


放課後、帰ろうとすれば降り出した雨。

久しぶりだな。1週間ぶりの雨である。


「ごめん茜!今日バイトに急いで行かなきゃで・・・。」

「そっか!全然!」

「・・・大丈夫?」


私の顔を不安げに覗き込むはるかに、

精一杯の笑顔で答える。


私の言葉に少し安心したように頬を緩めた彼女は、今のクラスは違うものの中学校からの友達で、唯一繕わないで話せる相手だ。


「なんかあったら電話しなね。すぐ飛んでくから。」

「また。品川しながわさんに怒られちゃうんじゃない?」


私がふざけてそういえば、はるかもあちゃー、と舌を出す。品川さんとははるかのバイト先のパートのおばさんで、どうにもはるかと合わないらしい。毎日愚痴しか聞かない。


謝りながら急いでバイトへと向かうはるかに手を振って、帰宅準備をする。


大丈夫、とは言ったものの、

雨の中帰るのは、少し躊躇ってしまう。


・・・もう少し弱まってからにしよう。


そう思ってもうほとんど人が残っていないのを確認して、下駄箱のそばに座り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る