第4話 課題に取り組む

「夏休みの課題ぃ? 異世界転生した俺がなんでそんなもの取り組まなきゃいけないんだよ」


明らかに不快で迷惑そうな顔をしてしているソイツに僕はうんうんとうなずく。


「気持ちはわかるよ。でもね、君は自分のいるべきではない世界にいて、自分とはいえこれから僕に迷惑をかける。代償ははらわなきゃいけない」


「代償、ねぇ? あ、女にもてるコツ、教えてあげようか?」


「却下。目下、僕の重要な課題はこの夏休みの課題と君の存在だけだ」


そう言って僕は机の端にある課題を引き寄せる。


「はい、こっちが君の担当分。こっちは僕が自分でやる」


「お、手伝ってっていうからには自分でもやるんだな、感心感心」


上から目線に腹が立つ、が、一応ソイツは課題に取り組んでくれる気はあるようで、筆箱からごそごそと僕の一番お気に入りのシャーペンを取り出して課題に向き合い始める。

こういうところを見ると、やっぱり僕なんだなぁなどと実感するが、立ち居振る舞いでは、細かい部分を見ないと見つけられないほど僕とソイツは違いすぎる。

どうしてこうなったのだ、僕は。

まあ、そんなことより課題と頭を切り替えて僕も再び机に向かった。


それから僕らは、しばらくもくもくと課題に取り組んだ。

適当にやっていないか心配になってら僕はソイツのやっているページをちらちらと確認するが、教科書を開きながらも丁寧に問題を解いていた。

筆跡は僕と同じ。

つっかえる問題も僕と全く同じ。

分岐したタイミングからあとに、僕はほとんど勉強できていなかったのだから当たり前か。

しばらく後、


「よっし、一冊終わったぞ」


言葉とともに後ろに倒れこむソイツ。

ちょうど同じタイミングで僕も問題集を一冊解き終えそうだというところだった。スピードも大体同じか。


「ちょっと待って、僕ももう終わる」


「おうよ。麦茶もらうぞ」


冷蔵庫から出しっぱなしだった麦茶は、そのボトルの体に水滴をたくさんつけていて、見るからにぬるそうだ。

そんな麦茶をコップに入れ、ソイツはやっぱり一気に飲み干す。

どうして、そんなに急いでるように飲み干すんだろうな。


最後の回答をAnswerの部分に書き入れ、僕は問題集を閉じる。


「よし、終わった」


「お、じゃあ、俺のこれからについて話そうぜ! 取引だからしょうがなく課題手伝ってやってっけど、実は解いてる間も心配でそわそわしてたんだぞ」


全身でそわそわを表現するソイツに、僕はちょっと悲しいお知らせをする。


「課題、ね。今日の分は終わったかな」


「は?」


その絶望的な顔よ。


「待て待て、俺の知ってる夏休みの課題ってそんな多くなかったぞ。てか、俺の性格なら課題は休み序盤に終わらせるはず。なんでそんなに一日あたり多くやらなきゃいけないんだよ」


「いい質問ですね」


先生風の口調で言ってみる。

楽しくない。

僕は悲しくなりながらため息まじりにそれに答えた。


「事故に遭っただろ? んで、高校の出席日数たりなくなるだろ? その補填の課題なんだよ」


「なん、だと……俺、異世界転生できてよかった」


「ご愁傷様。異世界転生して一度は逃れたのかもしれないけど、最後まで手伝ってもらうからね」


僕の課題的には、こいつがこの世界に来たことは僥倖と言えよう。

なにしろ、筆跡も一緒なのだから代筆を疑われることもない。


「ちょっと待てよ」


僕の課題をちらっと見、家のカレンダーを見たソイツははっと息をのむ。


「え、マジ? こっちの世界線だと、まだ事故から3か月しかたってないの?」


それに驚くってことは、コイツの世界ではもっと経ってたってことか?

それはこの謎を解決するのにちょっとは役に立つ情報かもしれない。


「そっちの世界では違ってたの?」


「ああ、そうだよ。だって俺、転生してから魔王倒すのに1年は旅してたし。そのあとその姿に惚れた女の子たちとの放浪の旅だって同じくらいしてたし」


どうも転生して女好きになってしまったようだ。

それに魔王だって?

なんだよ、異世界転生した僕ばっかりいい思いしやがって。

僕は、痛みと必死に戦いながら怪我がなんとか完治したと思ったら課題地獄だよ? どういう楽しさの振り分け方してんだ、神様。


と、思ったりするが、とりあえずそれは口には出さず、心の中に封印する。

そして、心を落ち着かせるために目の前にいる問題に集中する。

異世界転生した僕の観察。

そう思えば最初から僕にしては横幅が大きかった。自分でも気づいていたが、それは年月ではなく、異世界転生のストレスによる過度な飲食などが原因と思っていた。

決めつけはよくないな、柔軟に物事を考えていかないと、こいつをもとの世界に追い返せない。


「なるほど、そっちでは2年くらい経ってるのか」


「あ、あくまで2年ってのは体感な。あっちの世界では1日とか1月とかの時間が違うから、こっちの2年と正確にイコールで結べるかはわからん。でも俺の体感だとそのくらいだなー」


まあ、いくらぱっぱらぱーになったからと言って、2年と3か月はイコールでは結べないだろう。

すると、こいつは僕の今現在よりも少し未来の状態だということになる。

僕はもう一度じろじろとソイツを見て、悲しくも残念ながら同じであるその点を認識する。


身長。


まあ、もう成長しないのではなく、異世界に行ったせいでとまったと信じたい。


「あ、そういえば、俺、ちょーっとすごいことに気付いちゃったんだよね」


いろいろ考えているところにまたこれだよ、こいつは。

少しは静かに出来ないのか?


「俺さ、こっちの世界でも魔法、使えるみたいなんだよね」


手から炎を出して見せるソイツ。


驚く僕。




そして、警報が鳴りだす。

我が家の熱感知式火災報知器。


ああ。

うん。

火の取り扱いには気を付けないとね。

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