第30話絆
私は自分の部屋でどうするかずっと考えていた
その時部屋のドアからお母さんの声が聞こえた
「円花、お母さん買い物行ってくるから留守番よろしくね」
「分かった!」
お母さんは階段を降りていった
「ハァ…どうしよう…」
ベッドに寝転んでいたその時
ピンポーン
「ん?誰だろ?」
下からお母さんの声がした
「円花ー!井上さんって言う方が話あるそうよ」
(井上さん…!?)
「どうぞ、上がって、わざわざありがとうね、
じゃあ円花行ってくるから」
(え…ちょっと…)
お母さんは買い物に出かけた
私は一階に降りた
リビングには井上さんが立っていた
(うっ…気まずい…)
「…お邪魔してます」
「どうぞ」
私は目をそらした
「…そこ座ってて下さい…」
「…ありがとう」
井上さんをソファに座らし私はお茶を淹れた
(二人きり…どうしよう…)
私は井上さんの前にお茶を置いた
コト…
「どうぞ…」
「ありがとう」
井上さんはお茶を飲んだ
「…何の用ですか?」
私は目を逸らした
その瞬間
「ごめん!」
井上さんがソファから降り頭を下げてきた
「え?」
「病院で寝ていた時三田倉がいてくれて嬉しかったんだ
ずっと側にいてくれたのにあんな態度をとって本当にごめん!」
「い、いえ」
「あんな態度をとったあげく、お前にあんな事するなんて、俺どうかしてた」
「欲情…じゃないんですよね?」
「違う!俺はわざと嫌われようとしてあんな事した」
「…どうしてそんな事…」
「それは…」
一瞬間があいた
(ん?)
「三田倉が好きだから」
「え!?」
(井上さんが私を!?)
「三田倉を家に送り帰ったあの後…
俺三田倉の彼氏に会ったんだ…」
(晋ちゃんが言っていた事と同じだ…!)
「…彼氏から聞きました…」
「そっか…その後少し話をしたんだ」
私は黙ってずっと聞いていた
「その時三田倉の彼氏に言われた
《円花は俺の物だから》って
その時は別に何とも思ってなかった
だけど、後から一人になって
三田倉の彼氏に嫉妬して
一人でイライラして
三田倉が彼氏の話をして嬉しそうにしていたあの顔を思い出して…
そして気づいた
三田倉をいつのまにか好きになっていた事に…
でもムリだと分かったから、俺の気持ちは一生言わないつもりだった」
井上さんが私の目をまっすぐ見る
「…井上さん…」
「…これ以上三田倉と一緒にいたら俺はどんどん気持ちが抑えられなくなる
そう思ったから嫌われるよう仕向けてあんな事したんだ…」
「…そうだったんですね…話してくれてありがとうございます」
「たくさん困らせて本当ごめん…」
「いえ…」
井上さんの気持ちを聞いて私は少し気が楽になった
「後、告白したけど」
「はい」
「報告として受け取っといて」
「え?」
「俺がお前を好きだったと言う報告」
「井上さん…」
「今日は謝りに来たのと
俺のちゃんとした気持ちを伝えて
気まずいまま別れるのは嫌だったから、ちゃんと話をする為に来た
返事はいらないから
三田倉が彼氏の事好きなのは知ってるし」
井上さんは悲しい笑顔をしていた
「…有難うございます」
「…三田倉俺は指導していた数ヶ月本当に楽しかった
初めはあいつらと同じように見ていたけど
三田倉を教育して見ているうちに
あいつらとは全然違った事が分かった
ちゃんとメモは取っているし
俺が教えてる最中も分からなかったらちゃんと質問してくれるし
努力家で頑張り屋で根性がある奴だと分かった
だからこそ、俺は先輩として三田倉に教育したい
もっと仕事を教えたいし、一緒に働きたい
だから…頼む!
このままウチで働いてほしい!」
井上さんの気持ちを聞いて
私は一気に気持ちが楽になった
井上さんと働いていた数ヶ月、本当に楽しかったし
色々な事をたくさん教わった
厳しいけど、優しくて
ちゃんと私を教育してくれた
この人が私の先輩で良かった
本当にそう思った
私もまだ井上さんに色々教わりたい
「今、井上さんの気持ちを全部聞けて、びっくりしたけど本当に嬉しかったです
井上さんに色々教わった数ヶ月
本当に勉強になる事ばかりで
仕事をしていて初めて楽しいと思いました」
井上さんだけじゃない…
皆さん優しい人ばかりで
温かい職場だった
「…私もまだまだ働きたいです!
もっと井上さんに教わりたいです!
私、もっと頑張ります!
だから、引き続きよろしくお願い致します!」
「三田倉…ありがとう…こちらこそ」
私は井上さんと握手をした
「今日は最後まで聞いてくれてありがとう、来て良かった」
「私も…井上さんの気持ち聞けて良かったです!
話してくれてありがとうございました」
「じゃあ、これからもよろしく」
「はい!」
「またな、ごちそうさまでした」
「はい!気をつけて!」
井上さんは、帰って行った
井上さんが帰った後私は早速店長に電話をした
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俺は三田倉の家を出てチャリに乗った
「今日、行って良かったな」
気まずくなった期間中俺は四六時中三田倉の事を考えていた
謝らないと…謝らないと…
ずっとずっと考えていた
だけど行動出来なかった
梨絵に背中を押されていなかったら
頭で考えるだけで
行動出来ないまま、三田倉とも気まずいまま終わっていたと思う
「梨絵に感謝しなきゃな…」
俺の気持ちは一生言わないつもりだった
三田倉との関係を壊したくなかったから
だから逆の発想であんな事をした
けど違った
初めから気持ちだけでも伝えれば良かったんだな
例えそれば報われない恋でも
こんなモヤモヤした気持ちのままでずっといるぐらいなら伝えた方がスッキリするんだな
俺の恋は終わったけど
そのかわり俺には大事な物が出来た
それは三田倉との“絆”だ
俺には恋よりももっともっと大事な
三田倉との“絆”がある
もうそれだけで十分だ
俺は今日でこの“絆”を大事にすることを決めた
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