新訳 桃太郎

NEO

桃太郎?

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。

 お爺さんは山に自宅防御用の地雷設置に、お婆さんは川に射撃訓練に向かいました。

 お婆さんが川向こうのシューティングレンジに向かって、M4カービンを撃っていると、なにか分かりませんが、上流から巨大な物体が流れてきます。

 お婆さんはそれに銃口をむけ、無言のままフルオートで連射し始めました。しかし、全く効いている様子はありません。

 やがてそれが目の前まで流れてくると、表面が銃弾でズタボロになった巨大なももだと分かりました。

 常識ではあり得ない珍事でしたが、危険物ではなさそうなのでこの歳でも現役を維持するために、鍛えに鍛え抜いているマッスルパワー全開でクソ重いももを引き上げて肩に担ぎ上げると、なんとかの巨人のごとくズシンズシンと足音を立てて歩き無事に帰宅しました。

「なんじゃいそりゃ?」

 作業を終えて帰宅していたお爺さんがお婆さんに尋ねますが、当然お婆さんも答えようがありまん。

「いやー、川で拾ったんじゃが、ライフル弾も通さないほど頑丈でなぁ」

 ドカンと派手な音を立ててももを庭に放り出し、お婆さんは大きく息をしました。

「ほう、C-4なら効くかいな……」

 お爺さんは道具箱から、いわゆるプラスチック爆弾を取り出し、ももというのも問題がある巨大もも? に適量を仕掛け爆破してみました。

 すると、適当に仕掛けたにも関わらず、ももが綺麗に真っ二つに割れ、中からもういきなりゴツい顔をした、可愛いというよりは屈強な男児が現れました。

「……ワシには分かる。この子は立派な兵士になる」

「この顔じゃけぇ。当たり前じゃ。いちいち劇画調の顔にならんでよろし」

 こうして、男の子は爺さんの厳しい訓練と、お婆さん特製のドーピング薬ですくすくマッチョでタフな男に育っていったのでした。


 そして適齢期。桃太郎と名付けられた屈強な男は、なにかとちょいちょい悪さをしてくる鬼を退治すべく、鬼ヶ島へと出向くようお爺さんに命じられて出発しました。

 渡されたのは錆付いたボルトアクションライフルと、死ぬほど不味いと評判の某国のレーション、そしてお婆さんがトレーニング後に飲んでいるプロテインのみ。

 お爺さんもお婆さんもどこまでもストイックです。最新兵器はくれませんでした。


 自宅を出発してしばし。最新兵器に身を固めた男に出会いました。

「そのレーションを一つくれ。腹が減って死にそうだ」

 こんな所で何をしていたのかは分かりません。しかし、男の目を見た桃太郎は黙ってレーションの袋を一つ投げました。

「……食え。俺は先を急ぐ」

「待て。タダ飯食らいは信条に反する。俺も付き合おう。そうだな、「犬」とでも呼んでくれ」

 こうして桃太郎は「犬」を仲間に加え、先を急ぎました。


「かなりの使い手とみた。一太刀合わせて頂きたい」

 港へと向かう道すがら、脇の森から急に刀を帯びた男が現れました。しかし、こちらは二人とも装備は銃。こういう面倒臭そうなのに真面目に関わる理由もなし。二人揃って銃を構え一撃で倒してしまいました。

「ふふふ、さすが見込んだ通りだな。我が道を極めるため、断られても付いていくぞ。そうだな「猿」とでも呼べ」

 こうして、猿は一方的に仲間になりました。話しの帳尻を合わせるために、桃太郎は嫌がる猿に無理矢理レーションを押しつけました。それほど不味いのです。


 港まであと僅かというところで、道ばたに戦闘機を降ろし、なにやら整備している男に出会いました。

「なんだ、そのF-35Bは。パクったのか?」

 何気にこういうのが好きな桃太郎は、男に声を掛けました。

「36年だ。36年ローンで買ったんだ。高い買い物だったが、満足しているぜ」

 凄まじく高価で垂直上昇も出来ちゃう最新の戦闘機。1回当たりの支払いはいくらだ? いや、野暮だな。

 桃太郎は軽く頭を振って考えを振り払いました。そして、どうしてもコイツが欲しくなったので、その所有者である男に提案しました。

「残りのレーションを全部やる。少し手助けしてくれ」

 戦闘機乗りは嫌な顔をしました。重ね重ね不味いのです。

「レーションは要らんが、飛ばせと言うなら飛ばすぜ。場所はどこだ?」

 男も暇だったのです。オモチャがあれば遊びたくなる。それが男の子なのです。

「ああ、鬼ヶ島だ。コイツなら5分もあれば着くだろう?」

「3分だ。あんな鬼しかいないところに何の用だ?」

 男は桃太郎に聞きました。

「その鬼退治だ。上官からの命令でな」

 桃太郎は素直に答えました。

「なるほどな。よし、ちょうどフル爆装してある。俺のことは「キジ」とでも呼んでくれ。先に行ってるぜ!!」

 そして、戦闘機は轟音と共に飛んで行ってしまいました。意外とせっかちなようです。ちなみに、隙をみて戦闘機のシートにレーションのパックを一つ置いておきました。これで数は合います。

「俺たちも急ごう」

 残された桃太郎と「猿」は、急いで港を目指したのでした。


「……ずっと不思議に思っていたんだが、なんで鬼ヶ島までの定期便があるんだ? しかも高速艇だぞ」

 座席に座った「猿」が隣の桃太郎に聞きました。そう、港から鬼ヶ島までの定期航路があるのです。これさえなければ、鬼もちょっかい出せないのでは? 桃太郎も常に謎に思っていた事です。

「なんにせよ、やる事は一つだ。準備だけはしておけよ」

「お前もな」

 三十分もすれば戦場となる。気を締めた二人でしたが……

「「キジ」の野郎。やり過ぎだ……」

 桃太郎は思わず呟いてしまいました。

 先行していた「キジ」がありったけのミサイルや爆弾をばらまいたせいで、もはや二人の出番はありませんでした。

 ついでに回収するよう、お爺さんから命じられていた金銀財宝も、見事に粉々に吹き飛んでいます。もうため息しか出ません。

「俺も戦闘機買おうかな……」

 桃太郎がポツリとつぶやき、鬼退治は無事に終了したのでした。


 めでたし、めでたし?

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