Overdrive BR

なかひと

宇宙に漂うもの

 彼は見えない。この世界が。

 ここは宇宙。彼はポッドに入って眠っている。まるで死んでいるかのように。




 20xx年地球 都市クウォーリー アブソリュート・デルタ・カンパニー、テストルームにて。

「ルーン!早く来い!置いていくぞ!」

「待ってよ、ラグラン!」

 ラグランと呼ばれた中年男性は筋肉隆々で、後ろに束ねた長髪が特徴的な人物だ。ルーンと呼ばれた青年はいかにも女たらしといって風体で、ラグランの後を慌ててついていく。

 ふたりとも宇宙服のようなものを着ている。

「宇宙服じゃないわよ~。対ロボット用アーマーって呼んで~。」

 のんびりな口調で女性が一人、テストルームに入ってきた。

 女性の名前はモイ。このカンパニーのリードメカニックだ。姫系衣装に包まれていてとても可愛らしい印象を残す。

「こんな平和な時代に、必要かね、このアーマー。」

 “アーマー”の部分を、宇宙服を訂正しましたといわんばかりに強調しつつラグランが言う。

「仕方ないじゃない、私たちはなんでも屋なんでしょ~?何かあったら危ないじゃない~。」

「それはそうだけど、このアーマー着るのボク苦手だよ。」 

 ルーンもしぶしぶアーマーを着たというふうである。

 どうやら男性二人には不評のようだ。

 

 “なんでも屋”

 

 そうモイが言ったのは正しい。アブソリュート・デルタ・カンパニーは表向きはロボット開発会社だが、ウラでは重要な仕事を任されることがたまにある。それは、ラグランが元軍人であることの延長線上で危険な仕事が入るのだ。

「さあ、テスト開始よ~。テストルームに入って~。」

 テストルームを出るモイとは対照的に、仕方なさそうにルームに入るラグランとルーン。


『テストを開始します。モデル1~5、準備完了。』


 無機質な音声とともに、人型のモデルが5対出現してきた。

 ラグランは気を引き締めるために頬を掌でばしばしっと叩きながら気合を入れる。

「よし、やるか!」

「うん!」

 ラグランとルーンが戦闘態勢に入る。それとともに、モデル達がこちらに向かってきた!拳をラグランとルーンに対して繰り出す!2人は拳を受け止め、モデル達に向かって蹴り上げる!

すると、モデルは消失した。

 続けて他のモデルが戦闘態勢に入るが、2人はあっという間に伸してしまった。


『テストを終了します。』


「二人ともお疲れ様~!」

 テストルームに入りながら、労いの言葉をかけるモイ。

「随分とラクなテストだったが、いいのかこれで?」

 ラグランは疑問を持ちながらアーマーを脱ぎ始めた。

「いいの、いいの~。大体のデータは取れたから。ありがと~。」

「まあ、あとはモイに任せよう、ラグラン。」

「だな。」


 ピピピピピ。ピピピピピ。


「あら、通信。なにかしら~。」

 のんびりと通信機の前に立ち、音に応える。

「はい、こちらアブソリュート・デルタ・カンパニーのモイ・ラレルです。」


「紅茶でも飲もうかなボク。」

 モイの通信が気になりながらもつぶやくルーン。

「オレにはコーヒーを頼む。」


「二人とも!そんな余裕はないみたい。危ないお仕事が来ました!」

『了解!』

 2人の表情が引き締まる。


「場所は宇宙よ!」




 数時間後、宇宙服に包まれた2人は宇宙に到着した。

 大きな破片が漂う場所。

「ここが、依頼主の指定場所だね。」

 ルーンが辺りを見回しながら言う。

「ああ。人工衛星が爆発して、そのブラックボックスの回収だったな。」

「えーと、ブラックボックスのある位置は……。」

 位置を確認するルーン。


 ピピッ


「七時の方向みたいだ。」

「了解。」


 しばらく漂いながら、2人はブラックボックスの位置に到着した。

「それにしても、この爆発は酷いもんだな。」

「政府からの依頼だけど、爆発した原因とか詳しい情報は訊けなかったみたいだね。」

 そうだな、と言いながらラグランはブラックボックスを回収する。

「よし!回収完了だ、ルーン。モイに連絡する。」


 ピピピピピ。


『はいはーい!こちらモイ=ラレル。』


「モイ。仕事が終わったぞ。転送装置の用意を。」

『はーい!2人ともお疲れ様。』


 ピピッ


 突然発信音がした!


「待って!ラグ、モイ!十一時の方向にまだ何かあるみたいだ。」

 戸惑いながら言うルーン。

「ブラックボックスがまだあるのか?」

「うーん、よくわからないけど……。発信音がするからには調査しないと依頼主に 何か言われそうだし……。」

「そうだな。行ってみるか。」


 数分後。

「えーと、たしかこの辺なんだけど……。」

漂う2人。

 そこで、なにか光るものを見つける。

「おい、なんだこれ……。」

「ポッドに人が……。」


「いや、これは人じゃない。アンドロイドだ……。」

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