問3.6 : 島田葉月は織田真理子を覚えていますか?
「あ、葉月」
美波が声をかけると、葉月はぴくりと肩を震わせて振り返った。
「なんですかぁ? 島田先生?」
そう言って、葉月はにこりと笑った。
次は体育なのだろう、葉月は、体操着を入れたかわいらしい袋を持って、友達と更衣室に向かう途中のようだ。隣を歩いていた友達の女の子を先に行かせて、葉月は美波の方に寄ってきた。
「ちょっとお姉ちゃん! 学校で声かけないでいって言っているでしょ!」
「なんでよ。いいじゃないの」
「いやなの! 恥ずかしいの!」
「うっ、そっか、お姉ちゃんって恥ずかしいんだ……」
「そ、そうじゃないけど」
「そうよね。うちはFクラスで、葉月はAクラスだもんね。そして結局、今でもFクラスの担任しているし。葉月も恥ずかしいわよね」
「だから、そんなことは言ってないって」
「胸だって、いつまで経ってもぺったんこだし。いつのまにか葉月の方がおっきくなっているし」
「お姉ちゃん? そんな話してないよ?」
「そっちの方ではうちがAクラスで、葉月がFクラスよね。あぁ、なんか昔もこんな会話した気がするわ。うちにそう言ってきた奴には、地獄を見せてやったけれど、今思えばそのとおりよね。葉月だって、そんなお姉ちゃん、恥ずかしいよね」
「もう! そんな話してないでしょ! 勝手に落ち込まない! お姉ちゃんのわるいところ!」
「うぅ、だって葉月が、うちのこと嫌いだって」
「嫌いとは言ってないでしょ! お姉ちゃんのことは好きだけど」
そう言って、ハッと葉月は周りをぐるりと見まわし、それから声を潜めた。
「好きだけど、こうやって姉妹仲良し、みたいなところをクラスメイトに見られると恥ずかしいの」
「うちはぜんぜん平気だけど?」
「私が気にするの!」
ふん、と葉月は頬を膨らませて顔を背ける。
「で、何の用ですか? 島田先生」
「あ、そうだった。葉月って、織田さんて覚えてる? あの子の出身を見てたら、小中学校が葉月と一緒だったから知っているかなぁって思って」
「誰?」
「え? 知らない? 今、Fクラスにいるんだけど」
「知らない。学校が一緒だったからってみんなのこと知っているわけじゃないし」
「それはそうだけど。あんなインパクトある子だったら有名だったりしなかったの?」
「だから、知らないって言っているでしょ。だいたい、私は優等生だから、真理子ちゃんみたいな問題児のことなんて、これっぽっちも知らないし」
ものすごく嫌そうな顔をして、葉月は、
「それだけ? もう、そんなこと、SNSで聞いてよ」
とだけ残し、踵を返した。
先に行くように促した友達は、廊下の先のところで待ってくれていた。いい友達がいるんだな、と葉月はなんとなく安心した。
駆け寄っていく葉月の後ろ姿を見送りながら、ただ、と美波は首を傾げる。
「真理子ちゃんって、よく知ってるじゃん」
何で嘘をつくんだろう。
それと、
「何であんな気持ち悪いしゃべり方してるんだろう」
それが葉月の処世術なのかもしれないが、少なくとも美波にはわからなかった。
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