問2.1 : なぜ僕はこんな状況に陥ったのですか?

「試召戦争を仕掛けるぞ!」

 織田真理子は、小さい胸を張った。

 試験召喚獣代理戦争、通称試召戦争と呼ばれるそれは、文月学園でのみ行われる特殊な学園行事である。

 文月学園は教育機関であると同時に研究機関でもある。その研究機関が、十数年前に、科学と奇跡とオカルトによって発明したシステムこそ、召喚獣システムであった。

 簡単に言えば、アバターを現実世界に作成するシステムだ。いったいどんなメカニズムで可能となっているのかわからないが、僕達には触ることのできないアバターもとい召喚獣を出現させる。

 試召戦争では、生徒が召喚獣を使って文字通り戦争を行う、クラス対抗戦だ。

 召喚獣の力は、生徒のテストの点数で決まる。その辺りはゲームのように単純化されているが、召喚獣の動きは生徒の運動神経に依存する。

 文と武のどちらの能力も必要とされ、かつ、集団戦がゆえに当然戦略がなければ勝つことができない。

 生徒の学ぶモチベーションを上げるためと銘打ってはいるが、このゲーム性に惹かれてこの文月学園に入学してくる生徒も少なくない。

 目の前でにやりと笑みを浮かべる織田もその一人のようだ。

「待て」

 僕は、とりあえず一言述べた。

「異論は認めない」

「いや、待て」

 織田は不服そうな顔をしているが、そんなことは関係ない。彼女の怖さは、たった一日で嫌というほど理解したが、だからといって何でも看過できるわけではないのだ。

「何だよ。鈴之介は、試召戦争したくないのか?」

 すると「えー!」と吉井彩が不満そうな声をあげた。

「何で? やろうよ! 試召戦争。せっかく二年生になったのに!」

 どうやらこの娘も、文月学園の戦争ゲームをしたくてたまらないらしい。せっかく、というのは、試召戦争は文月学園の二年生から可能となる。というよりも二年生の期間にしか行われることはない。

 一年生は制度的に許可されておらず、三年生は受験で忙しいからだ。

 この文月学園に入学して二年生に試召戦争を行わないのはもったいないという気持ちはよくわかるのだが、今、僕はそんな話はしていない。

「まぁまぁ、落ち着きや、二人共。鈴之介くんなんて見るからに平和主義者っぽいやないか。あら事はきっと好かんのよ」

 フォローしているのか、していないのか、よくわからないが、少なくとも擁護するように秀吉は口を挟んだ。

「はぁ? 男が戦わないでどうすんの? ていうか、雑兵に拒否権なんてあると思っているわけ?」

 雑兵て。

「ねぇ、咲も試召戦争したいよね?」

 穏やかに座っている藤井咲のもとに、吉井がひょこりと跳ねて寄った。藤井は、にこやかに微笑んだだけだった。が、吉井はそれを肯定の意と判じて「でしょ」と頷く。

「ほら、咲ちゃんも試召戦争したいって言っているよ。鈴くんも戦争しようよ」

 何やら不穏なことを朗らか宣っているが、吉井の頭の中では、ゲームしようくらいの感覚しかないのだろう。学校の外では絶対に言わないでほしい。

 が、とりあえず、それは今どうでもいい。

 先程から、再三述べているが、僕はそんな話をしていない。

「ねぇー、鈴くんー」

「その前に、縄!」

 足と腕をぐるぐる巻きにされて、教室の床に寝転がされている僕は、とにかく必死に声をあげた。

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