第14話 湯あたりの新婚旅行
【7月16日(土)】
7月16日(土)に保護者会があった。圭さんは仕事が忙しいのに出席してくれた。佐藤先生から、私の成績は学年全体では10番以内に入るくらいだから、是非進学させて上げて下さいと言われたという。
【7月17日(日)】
圭さんが17日(日)と18日(月)海の日、新婚旅行の代わりに箱根にある会社の保養所を1泊2日で予約してくれた。私は高校生なので1週間の新婚旅行などできないけど、1日位はゆっくり休ませてやりたいと思ったみたい。2人で新婚旅行をしてみたいとも思ったので、好意を受け入れた。
私は朝、お弁当を2人分作った。9時に新宿からロマンスカーで箱根湯本まで、それから箱根登山鉄道に乗り換えて、保養所のある強羅まで行く。チェックインは午後1時だから、5分ほど歩いて昼前には強羅公園に到着した。ここで少し休んでお弁当を食べた。今はアジサイが見納め時。園内をゆっくり散策してからチェックインした。
部屋は程よい大きさの落ち着いた和室。窓から青々とした山並みが見える。2人で相談して今回は見物を無しにして、ただ、温泉に浸かって食事をするだけで、ゆっくり静養することにしている。部屋にはトイレと洗面所だけでお風呂は大浴場へ行く。それぞれ浴衣をもって温泉へ。お互いゆっくり入ることにして部屋を出た。
早い時間なので、大浴場には人がいない。お湯は熱いのが苦手だけど、丁度いい湯かげんだった。ゆっくり体を洗う。大きなお風呂も良いけど、次はお風呂のついたお部屋で2人一緒に温泉につかってみたいなあなんて思っていたら、随分長湯になった。
部屋に戻ると、圭さんはもう戻ってきていた。長湯し過ぎたといって、ソファーにダウン。真っ赤な顔をした私をみて、圭さんはうちわで扇いでくれた。本当に良い湯だった。
圭さんはじゃー湯上りのビールをいただくよといって冷蔵庫からビールを取り出してくる。私はお酌をしてあげる。私はサイダーを飲んだ。湯上りのサイダーは最高。
「温泉に入って、湯上りに可愛い妻が注いでくれるビールを飲むのは最高。これが夢だった」
「それほど大きな夢ではないですね」
「実はもっと大きな夢があるけど聞いてくれる」
「聞かせて下さい」
「お願いします。どうか膝枕させて下さい」
「大きな夢ですね。喜んで」
私が柱を背中に寄りかかって座ったところへ膝枕。気持ちいいみたいでウトウトしている。私もついウトウト。
お昼寝から覚めて、圭さんはありがとうといってソファーに戻るので私も横に座った。
「進学のことをゆっくり相談しようと思っていたんだけど、保護者面接で佐藤先生から是非と勧められた」
「ありがたい話だけど、迷っています」
「佐藤先生は国公立でも大丈夫と言っていたから、どうかな」
「国公立なら授業料も私学と比べて安いから、今の給料や貯金で十分だから遠慮はいらない。僕の妻なんだから夫が学費を出すのは当たり前で遠慮は無しにしてほしい」
「なら国公立を目指して頑張ってみます」
「どんな学部が良いのかな。資格が得られる女子に向いた学部・学科は教育学部、看護学部、薬学部、保健学部などかな」
「私はできれば圭さんと同じ薬学部に行って薬剤師になりたいと思います。学校の先生は忙しいし、看護師は夜勤があるので、圭さんとすれ違いが多くなるといやだからやめておきます」
「確かに、薬剤師なら日勤だと思うし、アルバイトをするにしても時給が良いので勧めるよ。ただ、国公立はこの辺だと千葉にしかない。私学ならいくらでもあるけど。それに、薬学部は僕が卒業するときは4年制だったけど、10年前ぐらいから6年制になったので6年間も勉強しないといけないけど大丈夫?」
「6年かかっても薬剤師になりたい。国公立を目指してチャレンジしても良いですか?」
「良いよ、是非チャレンジしてみて。でもすべり止めに他の学部も考えておいて。千葉へは今住んでいる所から通学できないことはないけど、大学は帰りが遅くなるから、合格したら、会社と大学の中間地点へ引越しを考えてもいいよ」
「頑張ってみます」
「できるだけ応援するよ」
圭さんの好意に甘えて進学してみようと思った。私が薬剤師になれば、圭さんが働けなくなった時でも私が何とかしてあげられる。それが圭さんのためにも恩返しになるとも思ったから。
それから、2人でまた今日2回目の温泉に入りに行った。圭さんはさっきのビールを抜いて夕食のビールをおいしく飲むためと言っていた。今夜のためにあんまりお酒飲んで酔っ払ってほしくないけど。
夕食は食堂でビュッフェスタイルの食べ放題。和食、中華、洋食なんでもある。私は肉料理とサラダ、フルーツが中心。圭さんは、初めは和食、次に洋食と中華をミックスしてかなり食べている。料理はどれもおいしい。味付けが参考になる。2人ともお腹いっぱい食べた。
部屋に戻ると、2人で布団を敷く。ここはセルフサービス。枕を2つ並べると2人ジッと枕を見てしまう。ただ、寝ようにもお腹が一杯で寝られそうにない。ソファーに2人座って手を握って持たれ合う。
「お腹が一杯、食べ過ぎた」
「張り切って食べ過ぎました。はしたない」
「ゆっくりできている?」
「はい、久しぶりでのんびりしました」
「まだ、出会ってから4カ月半しかたっていないのに、随分長く感じるね」
「毎日会っているからかしら?」
「いろいろなことがあったからだと思う。何が印象に残っている?」
「圭さんがショッピングに連れて行ってくれて、ヘアサロンで髪形を変えたこと、前の高校へ一緒に行ったこと、熱を出したとき看病してもらったこと、それからもちろん、プロポーズされたことと結婚式。圭さんは?」
「美香ちゃんのために布団を買った日に、僕の寝床に入ってきたこと、ヘアサロンに行ったこと、おじさんとの話を聞いたこと、前と今の学校へ挨拶に行ったこと、結婚式の夜と次の日の夜のこと」
「どれも私の大切な思い出ばかり」
「本当にそうだね」
私は圭さんの肩に寄りかかると、圭さんはキスしてくれた。でも、まだお腹が一杯で寝るに寝られない。
腹ごなしに、もう一風呂浴びようということになって、2人今日3回目の温泉に入る。部屋に戻ると、2人とも完全に湯あたりというか、ぐったりして、寝床に入って身体を寄せて抱き合ったけど、そのままいつの間にか眠りに落ちてしまった。
明け方近くになって、圭さんは寝入ってしまったことに気が付いて私を抱きよせた。私も気が付いて、それから慌てて愛し合う。
次に目が覚めたらもう7時半過ぎだった。4回目の温泉に入る。4回目は2人とも入る時間が極端に短い。それから朝食へ。
朝食もビッフェスタイルで食べ放題。また、お腹いっぱい食べて、部屋へ戻って、温泉と食べ過ぎに疲れて休憩。10時になったのでチェックアウト。
それから、箱根湯本のお土産屋さんを散策して、記念に寄木細工のコースターを2枚買った。昼食はお腹が空かないのでパスした。それでおやつ用に蒸したての温泉饅頭を買って帰った。
家についたのが、4時過ぎ。まだお腹が空かない。夕食にはお土産の温泉饅頭を食べた。私はあんこのお菓子はやっぱり金沢がおいしいというと圭さんも頷く。
2日間でお風呂に4回も入ったので、お風呂もなしにして、早い時間にただ抱き合って眠りに落ちた。保養に行ったのだけどやっぱり疲れたみたい。でも2人きりの旅行はとても楽しかった。
【7月18日(月)】
登校してすぐに佐藤先生のところへ行って、圭さんと相談して大学受験をすることにしたと話した。そして、国公立の薬学部を受験したいと伝えると、私ならきっと合格できるからがんばりなさい、できるだけ力になるとも言ってくれた。
今日から早速受験勉強をはじめたいのでご指導をお願いしますと言ったら、それだけやる気があるのなら大丈夫と言ってくれた。
帰り際に佐藤先生が受験のポイントをまとめた資料を私にくれた。お礼をいうと、プロポーズさせてくれたお礼だと照れながら言っていた。
帰宅後、家事を済ませてすぐに受験勉強にとりかかった。帰宅した圭さんに受験勉強を始めたことを話すと驚いて、これならきっと合格できると言ってくれた。
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