キュウドウさん

真生麻稀哉(シンノウマキヤ)

第1話

キュウドウさんは、血のつながらない俺のじいちゃんだ。



キュウドウさんの本名は、坂田求導(サカタキュウドウ)っていう。


嘘みたいだけど、本当にキュウドウって、いう名前なんだ。


このキュウドウさんは、ちょっと変わった人だった。



太平洋戦争のころ、まだ若かったキュウドウさんは戦争に取られた。

そこで、南の島に連れていかれて、頭に弾を2発、食らった。



弾を2発食らったのに、キュウドウさんは死ななかった。


かすった、とかの生易しいレベルの話じゃない。


頭に弾が入ったまんまというレベルの話だ。



キュウドウさんと、この島で一緒だった戦友の話によれば、


撃たれても死ななかったけど、


それからキュウドウさんは、挙動がおかしくなった。


戦争に行ってて、


「全員玉砕せよ!」


とか

「明日は特攻!」


とか、


上官のビンタや、


敵の発砲する弾丸が飛び交い、


自害用のパイナップル爆弾を、常にお腹に入れておくって状態なのに、


キュウドウさんは、絵ばかり描くようになった。


といっても、戦時中で、南の島の最果てで、紙だってむちゃくちゃ貴重な頃。

下手したら、紙を靴を調理して食べちゃうときだってあったくらいだ。


で、キュウドウさんはどうしたかというと、


ナスカの地上絵ってわかるだろうか。


キュウドウさんの場合は、マニラの地上絵だ。


ジャングルみたいな原生林の中で、木の枝をごりごりとひきずって、


誰にもわからない絵を描き始めた。


それこそ、すごくすごく上空から、


原生林や草をかきわけて見ないと


何が描かれているか、わからないような絵だ。


描いているキュウドウさんにさえ、何を描いているのか見ることができないのだ。


どう考えても正気の沙汰じゃない。


ただ、それはキュウドウさんの歩く軌跡から想像すると、


丸を幾つも幾つも描くような、


そんな絵だったという。



キュウドウさんは、それを弾が当たって頭に出来た穴に、


指をずぼずぼ突っ込みながら描くわけだから、


どう見てもヤバイ。


そんなをキュウドウさんを


周りで見ている方もたまらない。




それでも、一応、キュウドウさんは木の実とりや魚捕り、


食糧確保の任務の時にやるので、上官や同僚たちも、


仕方ないと目をつぶってくれたらしい。



キュウドウさんは、隊の中でも抜群に、魚獲りがうまい名人だった。


大雨が降って、食糧取りに行けないときは、食事の済んだ後の鍋や飯盒に、


箸やしゃもじをつっこんで、何か絵を描いていたという。

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