幽霊裁判 ~俺と死神の犯人探し~
覇丸
第1話『いつも』の終わり
俺は恵まれている。
中学生の時、親父を交通事故で亡くした時以外はずっとそうだ。
親父がいないなったとき、一番つらいはずの母さんがいつも俺を励まし、俺の学校のために死に物狂いで働いてくれたことがいい例だ。
おかげで俺は高校生活を楽しめていた。
だが、俺は愚かだ。
どうしようもないくらいに、愚かだ。
自分がしたことの重大さに気づかず、簡単に殺されてしまうされてしまうような奴だ。
俺は高校で人気者で、恵まれた知り合いがたくさんいた。と思う。
幼なじみで恋人だったあいつ。そんな俺らを妬んでいたあいつ。何でも相談できた大親友。とても優しかった先生。しっかり者だったクラスの委員長。スポーツの天才だったあいつ。
俺は勘違いをしていた。周りが恵まれているということは、安心できることではない。一人一人が油断ならないということでもあるのだ。
お察しの通り俺はもう死んだ身だが、今を生きる若者に、ある愚か者の物語でも話そうと思う。この物語はハッピーエンドでありバッドエンドでもある。まず主人公である俺が死ぬし、俺が見つけた犯人も死んでしまうからだ。犯人が見つかったことだけがハッピーエンドの要素だ。
さぁ、さぁ、皆さんお立ち会い。
幽霊になった俺と、一人の死神による、十日間にも満たない犯人探しの物語の始まりだ。
「ねぇ夕君、夕君ってどんな感じで死にたい?」
登校中、いきなりそんなことを恋人の奥田梢に聞かれ、俺こと荒川夕人は首を傾げた。
「なんだそれ? 聞いて意味あんのか?」
「いいからいいから」
「まぁ普通に寿命で死にてぇよ。誰も病気で死にたいなんて思わねぇだろ」
「じゃあどんな状況がいい?」
「一人静かに死にてぇな」
「え~? 私にそばにいてほしくないの~?」
「おまえが近くにいるとうるさくてなかなか死ねねぇよ」
俺は笑って梢の頭を撫でる。綺麗な髪だ。そしていい匂いだ。
「こら~。何嗅いでるんだ変態」
「いいじゃねえか。で、何でそんなこと聞いたんだよ?」
「ん~」
梢の目の光が少し薄くなる。暗い気分になったときいつもそうなるのだ。
わかりやすくて非常に助かる。
「私は今の生活が楽しいの。楽しいから、ずっと続いてほしいの」
「まぁ、そうだろうな」
ここで「俺もだよ」と言えないのが荒川夕人である。
「でもいつか人は死んじゃうでしょ? 私は死ぬのはイヤだけど、どうせ死ぬんならどんな死に方が一番いいんだろうと思って聞いてみたの」
「何らしくもなく暗いこと考えてんだ。そんなの先の話だろ」
「・・・・・・まぁそうだね! ごめんごめん暗い話しちゃって!」
開き直ったように大きな声を出してそう言う。こう言うところは昔から変わらない。
見てられない。悩ませたくない。悲しませたくない。
「心配しなくても」
俺は自然に言っていた。
「勝手に死んだりしねぇよ」
そんな俺の言葉に、結局梢は何も言わなかった。が、嬉しそうにスキップした。
本当にわかりやすくて助かる。俺は苦笑してその後について行く。
学校に着くと「ほんと仲がいいな」と言う声をかけられた。声がした方向を見ると吉永哲矢がいた。
幼稚園からの友達で今は大親友。俺が梢に告白するときも何かとアドバイスをくれた。
「おう、おはよう哲」
「おはようさん、夕。全く朝からうらやましいものだ。俺は告白を手伝ったことを後悔してるよ」
「そういうこと言わないでよ~哲矢君。私もすごい感謝してるんだよ~?」
三人で教室に向かっている間、取り留めのないことをしゃべる。この三人で過ごしているときが俺にとって一番幸せだ。
「てか夕。昨日ピアスつけただろ? つけっぱだぞ」
「あぁ、うん。・・・・・・あ、やべ」
「荒川君!!」
俺が察したときにはもう遅く、後ろから大きな声で呼ばれた。
誰かはわかっているが、無視すると泣いちゃうので後ろを振り返る。案の定、腕を組んでこっちを睨みつける一人の少女がいた。
「学校にピアスはダメだって何回言ったらわかるの!?」
「お前は俺のお母さんか」
「お、お母さんりゃない!!」
クラスの委員長を勤める少女、篠原理香子はそう叫んだ。ちょっと噛んでいてしまらない。しっかり者だがそう言うところもあり、基本的に優しいので面倒くさい性格の割にかなりの人気者だ。
「もうこれで何回目だと思ってるの?」
「覚えてねぇよそんなの」
「六回目よ、しっかり覚えなさいばか!」
「逆に何で覚えてんだよ。こえーよ」
「今日と言う今日は許さないんだから。罰ゲームを与えるわ」
「へぇ、なんだよ?」
「こ、梢ちゃんとどこまでいったか私に教えなさい!」
・・・・・・めっちゃにやにやしてしている。恋バナも好きなようだ。
そしてまるで変態のような笑顔だ。委員長とは何なのだろう。
「あなた達、こんなところで何してるの? もう朝礼始まるわよ?」
と、ちょうどいいタイミングでいい人が来てくれた。僕は振り返って挨拶する。
「おはよう、佐藤先生」
「ございますがない」
そう言って担任の教師、佐藤志織先生は俺の頭をコツンとたたいた。梢と哲もあいさつをする。
「・・・・・・志織ちゃんって呼ばないだけいいじゃないっすか」
「いくら私が優しいからっていつかは怒るんだからね? その前に直しなさい」
先生は優しくそういった。怒るところなんて想像がつかない。綺麗で優しいので、この人も男子を中心に人気がある。
篠原も「おはようございます」と言ってから俺を指さして言った。
「荒川君がピアスつけてまーす! 校則違反でーす!」
「今度は小学生か」
「高校生よ!!」
「知ってるよ」
「あらあら、それはいけませんねぇ~」
佐藤先生は楽しそうにそう言った。
「佐藤先生。夕君に悪気はないんですよ~? ドジっ子なだけなんです。許してあげてください」
梢が庇ってくれる。庇ってもらえるのは有り難いが、ドジはお前だ。一番お前に言われたくない言葉だ。
「そうですねぇー。じゃあ梢ちゃんとどこまでいったかを教えてくれるかしら?」
「聞かれてたのか・・・・・・」
「実際どうなんだい? 梢さん」
哲が梢にそう聞く。
甘いな哲。いくら梢でもそう簡単に答えるわけない。教えるなとも言っているからな。
「ん~、まだキスもしてないんだよ~」
フラグだったようだ。しかも本当のこと言いやがった。
「え・・・・・・、おいおい夕。それはさすがに梢さんに失礼なんじゃないか?」
「そーよそーよ! 荒川君はチキンね!チキンの頂点に立つ男だよ!!」
「本来健全なお付き合いは褒めるべきなんだけど・・・・・・それはちょっとねぇ」
全員から一斉攻撃を受ける。梢の方を見ると照れているようだ。
・・・・・・かわいいから許そう。
その時
宮本拓斗が通った。
俺に気づくと憎しみのこもった目で睨みつけてきた。が、すぐに視線をはずし、教室に入っていった。
・・・・・・まぁいつものことだ。特に思うことはない。
こんな感じでいつもの一日が始まったのだった。
始まりがあれば終わりがあるわけで、学校が終わり、俺は駅のホームの最前列にいる。電車がこちらに向かって走ってくる。
(なんか今日はいろいろあったから、いつもの一日って感じじゃなかったな)
本来ならここで回想するのだが、俺はそれができなかった。
ーーーーーーーーーーーーードン。
何か音がした。と同時に俺の体が前のめりに倒れる。
そしてここは最前列だ。つまり俺は路線の上に放り出される。
そこでやっと誰かに背中を押されたことに気づいた。
俺は反射的に後ろを見る。かろうじて表情だけは確認できた。
「何で・・・・・・」
俺はそう言うことしかできなかった。
その人は
とても哀れむような顔をしていた。
まるで苦しみながら死んでいく虫をかわいそうだ、と言いそうな顔だった。
「何でだ」
そこまでだった。
電車は勢いを止めることなく俺の体に衝突し、俺は木っ端微塵になって死んだ。
無様に、死んだ。
こうして、恋人との約束を破って俺は勝手に殺されてしまうのだった。
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