私と私の生存戦争
@shiborikasu
始まり
もしも・・・・・・。
もしもである・・・・・・。
自分が二人いたら?
皆さんはどうするであろうか?
片方に学校に行ってもらい、自分は家でグータラするのも良い。
役割分担をして、二人で家事をやってもいい。
学生だったらテストの時に教科分担して勉強してもいい。
良いこと尽くしかもしれない。
ただ・・・・・・。
食事の量が増えたり、ゴミが増えたり、余計なコミュニケーションが増えたりと面倒なことが発生するかもしれない。
そういったマイナスの面も出てくるかもしれない。
そもそも、自分が二人に増えるなど有りえないのだから。
そういった心配はしなくてもいい。
ただただそういった妄想をするときは悦に入るだけで良いのだ。
妄想をするときは楽しいことだけを考えていればいい。
そう。
楽しい事だけ・・・・・・。
話を変えよう。
もし、自分に常人を超える力を手に入れたらどうするであろうか?
人の何倍も速く走れる。
見た物をすべて記憶する能力。
触っただけで物の扱い方が分かる能力。
手から火や水、ひいては稲妻まで出すような能力。
人を意のままに操る能力。
そんなものが有ったらどんな事をするだろうか?
嫌いな人を懲らしめたい。
テストの成績を上げたい。
お金を稼ぎたい。
好きな人を振り向かせたい。
こんなありきたりなものや・・・・・・。
自分の障壁になる人間を消したい。
いい女を無理やりでも抱く。
人々を恐怖で支配して自分の国を作る。
なんて、人の欲求を剥き出しにした願望も叶える事が出来るだろう。
こんな人の欲求を剥き出しにして生きてきた女がいた。
彼女の名は―――
「反対です、彼女はこの世界に留まらせてはいけません」
雲の上。
青空しかない空間で美しい金色の髪を揺らし、声を荒げている。
「彼女は今後、なにかと必要な人材だ」
女神のような彼女の言葉を聞き流すかのように彼女と同じ金色の髪をした男が答える。
彼を一言で形容するなら「騎士」のような男だ。
精悍な顔つきに鍛え上げられた肉体は彼の来ている服の上からでもわかる。
「彼女ほどの大罪人は殺すか、島流ししかありません」
それでも女神は食いつく。
「確かに彼女は多くの人を殺し、奪い、犯し、残虐の限りを尽くした。だが、次に戦争を行うときには彼女のような人間がいると何かと便利なんだ」
精悍な顔つきからは想像が出来ないような言葉を男は吐く。
彼にとっては「戦略」に過ぎないのだが、目の前の女は納得できない様子だ。
「ルーカス、貴方が飼い殺されるかもしれない前に殺すべきです。これは姉としてお願いです」
ルーカスと呼ばれた騎士風の男は姉の目線から自分の目をそらす。
自らのあごに指先を添えて考える仕草をとる。
彼の癖だ。物事を考えるときは決まってこのポーズを取る。
「なら、こうしよう」
良い気分だった。
櫓の上に立てた専用の部屋で、自分好みの男の上に跨り腰を動かしながら、美女に口移しで酒を飲まさせる。自分の周りでは部下達が犯す、殺す、食うをしている。
その人間の性を剥き出し景色を見ながら肉欲に溺れるのが最高の時間だった。
時には女に自分の大切な処を舐めさせながら男に酒を口移しさせる事もあるが、どちらかというと今の体制のほうが好きだ。男が動いてくれるし何より奥に届く。
この日も宴が終ったら寝て近くの町に移動するつもりだった。
だったのだが・・・・・・。
「姉御!大変です!」
駆け足で配下の下女が走ってきた。
最高の気分が一気に醒めた。
よほどの事が無い限り人は入らないように命じている。部下たちもそれは必ず守る。
守らなければ私が殺すからだ。
男の上から立ち上がり指先から炎を出し男を焼き殺す。
「敵襲か?」
私の問いかけに答える間も無く下女は斬り殺された。
「お前がレイン・ラブレスだな?俺の戦争の為にお前を捕らえる」
「だとしたらアンタは?」
そう言いつつ私も手から剣を錬成する。
「俺か?俺はルーカス・ベルナルド。天界を統べる男だ」
そこからは割とすぐだった。
町を襲って男を犯してイク寸前だった私が丸腰で天使様に勝てる訳が無くあっという間に捕まった。
今では牢屋に繋がれ飯もろくに食わされずにいる。
「おい、ラブレス貴様の処分が決まった」
格子の向かいから金髪の羽が生えた男が蔑む表情で伝えてくる。
「なんだその目付き?喧嘩うってんのか?」
イライラする。明らかに下に見ている。調子に乗るな、天使風情が殺すぞ!!
叫び散らす。男は明らかに不快感を前面にする。周りに居る取り巻き立ちも私の裸体を見てニヤニヤする男や無機物を見るような目の女もいる。
「貴様のような下等動物が俺達天使に敵う訳が無いだろう」
そういって指先を私に向けて閃光を放つ。
一瞬。
目の前に火花が飛ぶ。
意識も飛ぶ。
「オイ、運べ」
閃光を放った男がそういうと、取り巻き立ちは牢屋のカギを外しレインを運び出す。
彼女の体はダランと垂れ落ちるように取り巻きの一人の肩に崩れる。
女はレインの血や排泄物で汚れた部屋を掃除する。
「誰かがイジメたみたいね。同じ天使の風上にも置けないわ」
そういいながら彼女は淡々と掃除をする。
「それだけの事をこの女はしてきた。当然の報いだ。俺はルーカス様の所へ先に行っている」
閃光を放った男はそれだけ言い残して監獄から出て行った。
それに続いて取り巻き立ちもレインを連れてルーカスが待つ所へ歩みを進める。
「しかしな。こりゃ上玉ですよね。イーサンさんはどう思います?」
年齢が若く軽そうな男がレインの裸体を見ながら言う。
「トッド。俺は戦う事しか興味がないし、隊長に聞かれたら殺されるぞ。捕虜に手を出した刑でな」
肩にレインを抱えながら髭を生やした男が答える。
「イーサンさんが重いなら俺が変わりに持ってもいいっすよ」
トッドは鼻息を荒くしながら問いかける。
その言葉を無視してイーサンは歩く。
トッドには任せられんという感情が背中からも感じられる。
「な、なんにもしないっすよ。ちょっと体を触るだけですから!」
「それだ。お前は女遊びが激しいとシルクから報告を受けている。お前みたいな男に犯罪者とはいえ女の身柄を預けることは俺には出来ん」
それだけ言うとイーサンはトッドがどれだけ話しかけても無視を決め込んだ。
しばらく歩くとルーカスが待つ協会に辿り着いた。
「お待たせいたしました、ルーカス様。罪人レイン・ラブレスを連れてきました」
そういうと祭壇の前に居るルーカスのもとにレインを下す。
「ご苦労。トッド、イーサンは戻りシルクと共に待機していろ」
二人は「ハッ」と答えて教会から出て行った。
「さて、ジース。レインには分離の呪いを掛けた後、島流しの刑にする事にした」
「分離の呪いですか?極刑ではなく?」
ジースが怪訝な顔でルーカスを見る。
レインが犯した罪は余りに多く、普通なら極刑。
いわゆる死刑に処される。人間界で手に余る人間は時折天界の使いが懲らしめに行き処罰を加えて改心または極刑に処し人間界に知られずに消える事が多々有る。
島流しは今とは別の大陸や世界に飛ばしその者の人生自体をやり直させる事である。
厳密にいうと島では無いのだが、なぜかこの呼称がいまだに使われている。
「分離の呪いを掛けた後に島流しする必要性がよく分かりません。どちらかでよろしいのではありませんか?分離の呪いを掛けられた者は大抵の者はロクに生活が出来ず、自害することになります。特に・・・・・・」
「特に?なんだ?」
ルーカスが言葉の続きを催促する。
「レインのような自尊心が強く凶暴な人間は特に生き残る確率が低いです」
ジースの言葉を最後まで聞くとうなずき。
「だろうな。俺もそう思う。まず間違いなくレインは殺し合うだろうな自分同士と。だが、やってみないと分からないし、これは実験だ」
ニコリと笑うと始めるぞと言い、ジースに術式を唱えるように指示を出す。
ルーカスがこうなったら止められない事はわかっている。ジースはルーカスの指示通りレイン・ラブレスに分離の呪いを掛け始めた。
教会内部が光に包まれる。
光が収まるとその場にはレインは居なくなっていた。
「ルーカス様。シドニー様にはご報告はよろしいでしょうか?」
「姉上にか?大丈夫だよ。島流しする前に姉上の所に彼女を送る手筈になっている。今頃あの女は姉上の所で尋問にあってるさ」
私と私の生存戦争 @shiborikasu
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