バスケしようぜ!
弟のバスケットボールが盗まれた。
いや「盗まれた」という表現が、果たして正しいのかどうか分からない。
順を追って説明すると、まず初めに弟たちは近くの公園にパスケットボールを持って行った。勿論、遊ぶためだ。
公園で数十分遊んだ頃、弟たちに中学生ぐらいの少年が近づき、モンゴル語で何やら話しかけて来たらしい。何を言っているのか全く理解できなかったが、バスケットボールを指差していたので、大きい方の弟が、
「もしかしたら、バスケットボールを貸して欲しいのかも」
と考えた。そこで、ボールの持ち主である小さい方の弟に、
「あの子にボールを貸してあげたら?」
と言って、少年にボールを貸す様、促した。
小さい方の弟は兄に言われた通り、ボールを少年に渡す。すると彼は連れていた犬を引き連れて、公園を出ていったそうだ。
「犬を繋ぎに行ったのかな......?」
と弟たちは思ったが、彼はそのまま帰って来なかった。
これが、
ボールを貸した少年が帰ってくるのを弟たちは公園で、かれこれ一時間ほど待っていたが、彼は来なかった。流石に焦った弟たちは、この出来事の事を両親に伝え、父と一緒にその少年の行方を探す事になった。
だが、その日は結局、彼を見つける事が出来なかった。彼に関する情報があまりにも少なすぎて、何も出来なかったのだ。
分かっているのは、彼が十代前半のモンゴル人であり、犬を連れている事だけ。
どうする事も出来なくなった私たちは、結局この件に関して特に何もする事なく、ただ時が過ぎるのを待つ事にした。両親が熱心なキリスト教徒で、これは神からの試練なのだろうと思っていたせいかもしれない。
良く分からないが、兎に角、私の家族は警察に通報したりする事もなかった。
仕事上、モンゴルの方と良く会う父によれば、
「モンゴルの人は、他人の物も自分の物だと考える、ジャイアンみたいな所がある」
らしい。だから、私たちの目線から見ればこの件は、
「ボールを盗られた」
だけども、彼の目から見た世界は、
「ボールをもらった」
なのかもしれない。
多くの日本人が持つ『人の所有物』に対する考え方とは正反対の考え方だ。
「価値観や倫理観、文化が違う」
海外で仕事をするにあたって、多くの人が直面する
「サンタクロースにもらったばかりのプレゼントなのに......」
と小さい方の弟は自分の兄に対して憤りを抱いていたが、どれだけ怒りをぶつけようと、ボールが戻ってくる訳ではない。
ボールをなくして、初めの二週間はまだ「戻ってくるかもしれない」と期待して、良く公園のバスケットコートをチェックしていたが、四週間が過ぎた頃には、完全に諦めていた。
だが驚くべき事につい数日前、父が仕事から帰ってくる途中、ふと公園の方を見ると、犬を連れたアジア系の少年がバスケをしている所を発見した。
父はすぐさま少年の写真を撮り、弟たちに確認すると、なんと件の少年だったそうだ。そして父は彼と交渉した。
「ボールはもう二個持ってるんで、あげますよ」
と言って、彼はその持ってきていたボールを父に渡した。
色々とツッコミたい所もあるが、今はただ、ボールが戻ってきた事実を喜ぶ事にしよう。
わーい!!
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