川沿いの道
住宅街の中を、幅のある川がまっすぐに伸びている。
その脇に一車線の道路があり、直線の先は上り坂になっていた。
その先で線路にぶつかり、道は右に折れる。
道路の川沿い側には、太いブナの木が等間隔で植えられていた。
反対側はどうなっているのかと言うと、住宅が並んでおり、全戸の玄関が川に向いている。
住宅のひとつではカフェが営まれており、女性に人気があった。
もともと、川沿いに車を止めている輩に加え、このカフェの開店時間になると、路上駐車はさらに増えた。
店の前の注意書きにて、少し離れた場所にある駐車場へ止めるように指示はされている。
また、違法駐車を警告する看板も、一本道に点在していた。
しかしながら、それらのアピールの効果は薄いようで、私が散歩で通りかかるたびに、川沿いに車が並んでいる。
いつも止まっている車などは、そのインテリアを覚えてしまった。
ときおり、警察の取り締まりが行われるので、警告や罰金を命じる張り紙を見かけることがある。
そのたびに私は、勧善懲悪の証拠へ意地の悪い笑顔を向け、文面を確認するのであった。
とうぜん、並んでいる住宅のほとんどに駐車場があり、軽自動車から高級車まで、いろいろな車が取り揃えられていた。
休みの日は、だいたい昼過ぎに散歩へ出かけ、似たような時間に、この駐車場と化している一本道を通るのが、私の習慣であった。
ある晩冬の土曜日も、いつもと同じ時刻に、その一本道に近づいた。
川を眺めながら歩いていたのだが、いつもの鯉だけでなく、久しぶりに亀の甲羅干しとも遭遇した。
亀の目元の赤い文様を見て、春の近いことを知ったあと、私は顔を上げ、驚いた。
常に車が並んでいる一本道に、一台も車が止まっていないではないか。
路上だけでない。
住宅の駐車場にも、一台も車が止まっていなかった。
何も起きてはいないが、何が起きたのであろうか。
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