逃避行

 私は化けた。ユッグゴトフの皆が私の脳髄を責める妄想。総てを祓う為に自己を贋物と見做した。真実の愛――地球人の有する、感情の波が最も相応しい――を掴む為、完全なる変貌を遂げたのだ。鏡の前に在る自分の証明。もはや。甲殻も羽も脚も無く、明滅する長髪と濁った瞳。即ち、地球人類の皮を剥ぎ取ったのだ。本来の持ち主には酷く『可哀想』な事を魅せたが、必ずや幸の道が現れるだろう。闇黒も光輝も死んだ、安寧への誘い。兎角。私は彼女の活きる術を見様見真似すべき。美味いものを貪ったり。勉学に勤しんだり。友人と言葉を交わしたり――されど私は愛が判らぬ。されど私は愛が解らぬ。青色の星は如何に愛を育んだのか、首を傾げる。一年。二年。三年……私は孤独に陥った。元友人曰く、気味なほどに綺麗だと。貌が良いのは『好い』事とは違うのか。地球人類の存在は面倒臭い。成程。面倒臭いの積み重ねが一緒の愛に繋がる。新たなる一歩を踏んだ己で『再挑戦』せねば。結果は容易で在る。確かに彼等は愛を齎した。子々孫々の約束を幾度も誓った。可笑しい。此れは本当に愛情なのか。男どもの双眸は妖しく煌めき、私の皮を醜いほどに舐って弄ぶ。ああ。詰まらない。逃避行は止めた! 私は私の真実を抱擁する為に『地下』で愛を調べよう――腹が減った。肚が減った。


 ――が減った。

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