真実を所有する事を――

 贖罪など無意味だと理解せよ。食材に成る己を想像せよ。創造された餌食の絶望が、頭部の中で渦を描く。私は愛したものを殺し、人間の身体を放棄した。もはや此処に在る必要も無く、拠点への帰還を強制されたのだ。ああ。我が懐かしき球体よ。ああ。我が懐かしき科学の歯車よ。ああ。我等が繁栄の象徴――ユッグゴトフの闇黒よ。総てを抱擁する秩序の叫び、種族の貌を顕現させる。羽搏く我等がエーテルを泳ぎ、円筒を掴む姿は全生命体への忠告だ。遍く存在は我等菌類に知識を晒し尽くせ。褒美に永劫の魂を与えよう。褒美に永遠の愛を与えよう。此れこそが真の愛情で在り、芯の通った寵愛だと想え。疑問を抱く事だけは赦さぬ。赦された範囲で愛を貪るのだ。美しい皺々。伸びない蠢き。脈動する薄赤色――私は幸福アナタタチを視た――浮かぶものが一個。さて。果て。私は何物だ。私は何者だ。確かに私は私の愛を成し遂げたが、現実は本当に自己なのか。杞憂。妄想の類とは違うのか。厭な汗が背中を這い回る。厭な粘液が甲殻を這い廻る。ずりゅりゅ……誰かが私を睨んだ。皆が私を睨んだ。目玉の無い球体どもが、私の汗に鬼憑気付いたのだ。敵意。殺意。嫌悪。忌避――逃げねば。私では敵わない。自身の正体も知らないで、彼等に敵うものか。適わない『もの』は逃げて終おう。


 ああ。私とは何なのだ。赦されたい。

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