不変的な怪物と愛の証明

頭蓋の中身

 無限楽園に花は無い。在るのは皆の魂と肉体。分離と融合を反芻する、死と生の混沌物。千人の若者は生贄に成されず、課された愛を咀嚼するのみ。反射する光は視得ず、得られた闇黒で作業せよ。此処には思考も要らず、淡々と――僕の名前は何だったのか。もはや。誰にも判らない。解る事は現在、僕が幸福で在る真実だ。世界は酷く恐怖で満ちた、絶望の都。ああ。僕は本当に運が好い。楽園の一部に取り込まれ、永劫を約束されるとは。重ねて。一番最初の『個』『仔』で在り、母の抱擁を味わえた。戻れないのだ。還るだけだ。己の証明など唾棄して終え。抱き撫でられる快楽に抗える存在など無い。我等が母は完璧だ。我等が母は至福の貌だ。我等が母は悦楽の薬。我等が母は盲目を殺す。我等が母は――ええい。五月蠅い。騒々しい。母と呼ぶのは勝手だが、私の存在を神だと認識するな。不変的な輪郭で在る私を『何処ぞ』の千の化身と同等と見做すな。忌々しい。ああ。貴様だったか。貴様にはお仕置きが必要だな。私の抱擁が必要だな。さて。我が仔。身を晒せ。精神を晒せ。此処に楽園を顕現させよう――どろり。どろり。赤と黄金が流動する。ぐちゃり。ぐちゃり。歯と歯の間で色が混ざる。てけり。てけり。てけり。てけり……僕の脳味噌が……しこうが……おかあさんのはらわたに。


 そんな夢は如何かな。

 ぷかりと嗤った、円筒頭蓋の中。

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