笛吹き

 Pi――Pi――俺の脳味噌に染み渡る、地獄よりも厄介で楽園よりも滑稽な、冒涜以外の音色が響く。Pi――Pi――俺の心臓を穿ち鳴らす、現実よりも愉快で幻想よりも悍ましい、嘲笑以上の音色が響く。喇叭とも弦楽器ヴィオラとも思考し難い、狂騒が覚醒したのだ。独房も門も固く閉ざされ、虚空ヴォイドを越えた数多の沸騰。窮極の混沌の中心で言辞を嘔吐した、魔王など既に無碍へと消滅した筈だ。此処は理想郷最悪で在る。暗黒神話の諸々も現実の糞だと理解せよ。確かに『混濁』は永劫を殺せず、復讐を果たせない。されど俺の――王の存在は別枠だ。所以は至極単純明快。俺こそが此処の『法』で在り、最も冒涜される人物なのだ。ああ――PiPipiP――五月蠅い。此度も俺の耳朶を殺戮するのか。鼠も仔も報酬も報復も何も! 実話など死んだと諦めるが好い。黒死も売買も失われ、結局は停滞の餌食に到達する。何。好い話に向かうだと。在り得ないな。此処に在るのは『冒涜』だ。俺が成すのは歴史の破棄。唾棄。自棄なのだ――折角だ。俺も笛を吹くべきだ。貴様等に最低を齎す為。貴様等に最低を与える為。支離滅裂エーリッヒ・ツァンを奏でよう――さて。何がきた!

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