Ἔρως

 俺の心臓は鉛の矢に穿たれ、正常なる愛を忘却して終った。精神に宿った人間への傾倒は憎悪にベクトルを換え、総てに対する抵抗の証明と成った。人形は復讐心を握り締め、現実の牢獄を破壊すると決意したのだ。俺こそが人形の一個体で在り、接吻を受けたの一側面で在る。ああ。愛よ。愛の貌よ。俺を産み落とした理由を教え給え。俺の心身に憤慨を埋め込んだ、真の所以を答え給え。応えは無い。幾度も繰り返した疑問だ。俺の魂に刻まれた、永劫の如き奴等への嫌悪感。黄金の輝きを備えた人類どもに最悪を投げ憑けよう。俺に課せられた使命を成す。さあ。狂気の時間だ。狂乱の時間だ。愛に歪んだ世界を殺戮する、火種タイマツを掲げるのだ――視るが好い。此処が普遍的無意識領域の深淵だ。聖火台クトゥグアの抱擁に身悶えを! 俺の存在を乗せるのだ。緩やかに。穏やかに。擽るように。嘲る為に。じりり。じりりと……意識が融ける。糞喰らえ。神野郎。

 世界は発狂した。遍く愛は憎しみに侵蝕され、神々は覚醒を強制された。人類を守護する為に『正』を定めた彼等は忙しなく、一個体一個体に説いて廻り始める。されど人類の騒々は止む事を知らず、神々は真に病み潰される。一二と脱落消滅する神々に救済は無く、彼等も――Nyahahahahahaha!!! 可笑しい。我等『物語』の筆通りに進めるのだ。勝手に『超常』が勝利するとは如何に。第一、神々が蹂躙されるだと。莫迦な! 人類の為の神々など存在しない。故に展開を捻じ曲げる。故に詩を歪ませる。訂正する。正しくは『こう』だ――糞喰らえ。神野郎。俺は融けた『だけ』だった――幸福な終幕だろうよ!

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