Ὄρθρος

 掘り進むのだ。俺の欲求を満たす為、永劫の如き土の塊を抉り進むのだ。貪る為に早急を成し、己の地獄に食物を届けるのだ。胃袋は灼熱の底無しで在り、飢餓の苦難に悶えて動く。死の臭いが周囲を抱き、思考回路を詰まらせる。ああ。思考など要るのか。要るのは嗜好に満ちた至高の世の中だと理解せよ。此処が最底辺で在るのだ。誰にも知られず報せず。数多の鬼どもだけが認めた、夜の如き無の貌よ。俺には真実が残された。偽りが齎す生温さなど吐き棄て嗤うが最善だ。鋭角に潜む猟犬も俺を拒絶し、否定に感謝を込めるのみ。攻撃の技術は永久的で――錯乱のベクトルは何処に駆ける。ああ。神よ。俺の所業を覗き込むが好い。ああ。邪よ。俺の滑稽を覗き込むが好い。此処には吼える彫り物など無く、木乃伊の欠片も風に融けた。早過ぎた埋葬が腐敗を遅らせると誰が説いた。だが。もはや。死霊秘宝ネクロノミコンは意味を成さない。何故か。簡単な事柄だ。世界から地獄と楽園は滅された。現実を視るべきだ。可能なものは苦悶以外に在り得ない。館を燃やそう。館を壊そう。夢を見る為の場所は死に果て、横たわるものは死者へと陥った。さて。俺は此れを使うのだ。撃鉄絶望を――我等『物語』の筆を入れる必要性皆無。奴は自らで既知を冒したのだ。文字通り遠吠えで在り、近寄る犬など無存在。取り敢えず。墓を発く人間も、闇黒既知を忘却したのだ。

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