Ὕπνος

 否定せよ――神の囁いた言葉を、私は死後も記憶して在る筈だ。人類の積み重ねた歴史。齎された生活の進化。崩落に突き進む繁栄の矛盾。総てを否定するのだ。故に私は私の総てを塵箱に投げ入れ、純粋な夢に陥ると決意した。されど真に夢で好いのか。私は疑問を虚空に放つ。先人達の煎じた茶葉を、幾度扱う阿呆の愉悦。ああ。神の言葉は正しいのだ。否定せねば。私は夢のカダスを、既知だと嘲笑う。ならば何処に逃げ込むべきだ。脳味噌も精神も拒絶し、私は何処に迷い込むのだ。無い。有る……糞。最も忌むべき。最も否定すべき存在を入れ混むな。這い寄る場所は無限だと思い込むな。貴様は既にと知れ。兎角。話を戻そう。私が欲するのは晴れやかに始まる物語だ。清々しく、奈落へと身を棄てる気分だ。違うな。気分では済まされぬ。気分だけでは否定は成せぬ。理解したぞ。私は最終的に否定すべきは言葉を吐いた神だったのだ。神の存在こそが私を捕縛する鎖で在り、数多の穢れを運んだ真実なのだ。さて。私は最期を得た。終を得た。獣じみた爪で緩やかに、そう、己の記録を抉り去って――※※※


 ――祝福しよう。貴様も我等『物語』の罪に到達した!


 神は存在しない。私に語り掛けるものは。

 きっと『 』なのだろう。

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