閉鎖空間

 世の中には数多の恐怖症が存在する。身近に在るならば高所恐怖症尖端恐怖症――閉所恐怖症。僕には理解不可能な言葉の羅列だ。特に暗闇に関する恐怖など、到底頷き難い。最も安堵を得られる空間こそが狭い闇黒だと思う可きだ。触手の蠢きや蜘蛛の哄笑、烏の如き化け物の捕食行為。僕等人類の外れた場所で、食物連鎖を繰り返す『地獄』こそが安息だと想う可きだ。其処には面倒な人間関係など無く、悪質な渦巻きは消滅するのみ。視よ。僕が思考する、最も愛すべき世界の在り方だ。誰も僕の思想を阻めず。故に淡々と言葉で現実を侵す事が可能。素晴らしいものよ。統べる可き存在が己を忘れ、彼等を崇拝する姿など滑稽の極みだ。其処に神は存在せず、有るのは超自然的な力関係のみ。純粋な力の衝突だ。雁字搦めの醜さは死に絶え、美しいピラミッドが完成する。僕等は奴隷なのだ。最下層の餌だ。餌は自らの役割を必死に終えて、捕食者の群れを満足させる。ああ。人類は人類だけの愚物じみた諸々を失い、悦ばしい超自然に回帰するのだ。筆を執れ。現実を永劫に綴る覚悟を決めよ。僕は既に心を締めた。僕は既に最悪を受け入れた。否。最高を抱擁した。此処には超越性ラヴクラフトのエネルギーが集い――そうだ。僕は最初に吐いた筈だ。世の中には数多の恐怖症が存在する。現実恐怖症。人間恐怖症。恐怖症。恐怖……ふふふ……僕は総てが恐ろしいのだ。ミストの如き彼等を想像し、最厭くから逃れるように!

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