真夜中

 素晴らしい。俺の脳味噌に覚醒の蟲が宿ったのだ。俺の肉体にバベルの塔が――決して崩れぬ神への冒涜が――建築されたのだ。言葉の有無など関係皆無。俺の内側に生じた、一種の解放感エネルギー超越性エネルギーは無限で在る。違うな。有限を殺戮した結果、底無き器へと変質させたのだ。兎角。俺の心身に与えられた人類進化の領域は目覚め以外に在り得ない。真夜中は死んだ。静寂は赤色の飛沫を撒き散らし、俺の眼前から消滅……ああ。結局は人類も奴隷だった。束縛する鎖を破壊した結果、新たなる昂揚へと到達可能だと知るが好い。何。俺の身に起きた超越に耳を傾けるだと。失礼。単純に睡魔が招来を恐れたのだ。重ねて。通常の世界に覚醒――光輝に満ちた幸福感――に抱擁されたのだ。薬物が原因だと。貴様等は俺の真実を理解して在らず、身勝手な妄想に突き進んで嗤うのみ。故に人類は愚物だと蔑まれた。神が塔を破壊した所以だと想え。人類が阿呆だから神は創造を拒んだのだ。想像された神が人類に牙を剥くなど不可能。可哀想な。可愛いほどに滑稽な地球人類よ。俺が貴様等を深淵まで導いて魅せる。此度、俺は宇宙まで身を――脳味噌を――運ぶと決断した。冥王星ユッグゴトフの菌類どもが招待状を綴り、俺の脳味噌に伝えたのだ。勿論、俺の進化は凄まじい。奴等の思考回路も容易く理解可能で在り、騙される事は万が一にも無い。精神感応テレパシー能力は俺の方が上なのだ。最悪の場合は奴等の明滅する頭部が破裂。心地良い。さあ。奴等の鋏が円筒へ――数分か。数時間か。数日か。俺は闇黒を飛翔した。数多の星々が怪物を孕み、黄金蜂バイアクヘー馬牛鳥シャンタクを呼ぶ。実に超越的エネルギーに溢れた空間だ。恍惚の果てに眩暈で吐きそうだ。肉体は地球に置いて嘲ったがな! 視るが好い。視る事は不可能だが、彼方が冥王星ユッグゴトフだ。俺は歓喜に震えて脳漿を乱す。溶液の中心で上下に蠢いた。奥底で奇妙な囁きが発生。俺を運ぶ菌類ユッグゴトフが慌てて鋏を――待て。俺を放置するのか。此処は闇黒の中心だぞ。ええい。臆病者か。痴れ物体か。誰が人類を! 全生命体を進化へと導くのか忘れたのか。俺は……俺は……俺は何だ。酷く痛む。頭が痛む。脳髄が悲鳴を上げる。内部でミシリと伸びる感触が……救済。神よ! ヨグ=ソトホウト! 慈悲の死を齎し給え! 終わりだ!


 真夜中アザトースに輝く一の種子が。

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