行進

 音だ。私の脳味噌でカラリカラリと音が鳴る。私の脳味噌でカっサリと重なる。積もる足跡が頭蓋を叩き、抑制する戸口を腐らせる。負の側面だけが活性化され、私は私の行進悪魔を止められぬ。留められぬ。知るべきだ。人間には『如何』詩酔うも無い時が在るのだと。知るべきだ。人間には『導』知り要の無い時が在るのだと。忌々しいゴミを殺す為にチリの行進に耳を傾けるのだ。虚空は己の感情言葉を聞かず、鬼面像の盲目性も無意味だと思え。想像せよ。私。人類の頭上で回るのは何か。答えは酷く単純で、誰もが抱く幸福の証――即ち、人類の謳歌だ。生命の錯乱だ。其処に到達するべく、私の脳味噌はカラカラと嗤う。ああ。乾いて往く。渇いて往く。餓えて逝く。されど死は永劫に在り得ず、獲るのは自己を磨いたのみ。紐解くが好い。火をくが好い。燃え盛る肉が降り注ぎ、私の総てを満ち充たす! 呼ぶのだ。召喚ぶのだ。我を妨害する壁など存在しない。呑み込め。飲み火せ。歌い狂え。踊り狂え。我に続け! いあ。いあ。くとがぁ。いあいあ。くうとおがぁ。ヒっひひっヒ……ハハ! 素晴らしい。人類は死んだ。醜い。憎たらしい。忌々しい。害虫どもが行進で屠られた。ゴミ悪意に堕ちて逝った!

 僕が世界を覗いた時、貴女は感情の牢獄に抱擁されて在った。其処には何も無く、残ったのは感情だけだ。誰もが死を拒絶する中、貴女の脳味噌は破壊を望む。可哀想な女の仔。僕は愛と涙を捧げて場を去ろう。僕は雨と蜜を捧げて場を去ろう。残酷な決定だが、貴女には病を糺す『薬』が必要だ。黄金色に輝く酒よりも極彩色の丸薬が重要なのだ。さあ。如何か。僕の飴玉を舐り続け――ああ。笑った。笑った筈だ。笑う以外に反応は無い。抉った飴玉目ン玉では見えない!

 私の地獄を塗り潰すのは何者だ。私の楽園を塗り潰すのは何物だ。甘い香りも雨の冷静も無意味だと理解するべきだ。好いだろう。良いだろう。我の牢獄愉悦を覗き込むが好い。堕ちて混むが良い――黙れ! クスクスと嘲る脳味噌の群れ! 無い有ると叫ぶなよ――ああ。そうか。貴様も私を滑稽な人形だと思うのか。悪魔の奴隷だと哀れむのか。泣き出すのか。へっへ。へへへ……上等だ。嗤った我を歓んで観察するが最良よ。貴様の肉も既に行進だ! 塵だ!

 やった! 僕の言葉が伝わったぞ。貴女の首が回り始めた。実に。実に素晴らしい光景だ。僕は貴女の脳味噌に恋した、優しくて穏やかな人間の一個体。ええと。間違いか。僕は人類の軍勢さ! 僕の指揮に人間は抗えない。僕の腕に人類は蒐集され――ああ。漸く気付いたのだ。僕と貴女は永遠の鎖に縛られた! 私の地獄は僕の奈落。僕の地獄は私の奈落。さて。貴様君達に質問だ。其処に行進しない人間は在るか『い』ィ? 僕と我の如く戯言嗤って進め!


 ――感情いぉまぐぬっとの行進よ。

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