怠け者

 痒い。凄まじく痒い。何が痒いのだ。脳天が酷く痒い。何者か。何物が私の頭皮に呪いを撒いたのだ。畜生が。痒い。兎に角。痒い。誰もが想像可能な痒さに在らず、憑かれた存在だけが知る感覚だ。毟る。私を毟る。泥赤が滲むほど掻き毟る。治す方法は有るのだが、往く方法が発見不可能。ああ。慈悲の深い世界よ。地獄の苛みからの解放を与え給え。痒い。次は額が疼き始めた。ぶくぶくと腫れる悪夢。瘤だ。角だ。ゴブリンなのか。ゴーントなのか。私は何処に向かう。救済の主は私を見棄て、醜悪の所業を嘲笑うのみ。糞が。貴様も私を殺す一個体人間どもなのだ。勿論、私も人間で在る。人で在る故に痒いのだ。背も痒い。痒い。耳朶の奥が痒い。蛆の蠢く音も死んだ。痒い。目玉も痒い。闇黒に満ちて。おい。おい。痒いな――心が痒い。精神が痒い。痒いのだ――ああ! 視得るぞ。私が望んだ薬物だ。塗り薬だ。蟾蜍ツァトゥグアの脂だ。啜る。啜る。舐る。素晴らしい。痒いが治まった! さて。次は何で治めようか。


 ――壊れた風呂怠け者め!

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