掌編

 其処の君。ああ。君だ。君に声を掛けたのだ。好い貌だ。書物を捲る音だ。私の耳朶を擽った君は『退屈』に溢れて在る、酷く『現実に飽き飽きした』魂だろう。文章には――文体と説くのが正しい筈だ――作者と読者の感情を弄ぶ力を有する。例えば。彼の文体を視るが好い。君の所有する書物の作者だ。人生に抗う為。己の現実を殺す為。良質な言葉だけを選択する。如何だ。君の好きな作者は未知を描いたのだ。次だ。私の携える幾冊かを解き給え。随分と魅力的な一文――君が最も嫌悪し、避け続けた悪夢――だと思考可能。淫らに染まったもの。待て。待て。勘違いするな。中身が色欲に染まった『愚物』とは違う。文字の並びが『淫ら』なのだ。其処を読むが好い。矢張り。君は才能が有るようだ。重ねて此方書物だ。如何なる感情。如何なる欲望が沸々と……素晴らしい。感動した。さあ。私のを――グラーキの黙示録 Ⅻ巻

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