殺し殺され愛の内

 超越的エネルギーに満ち充ちた世界で、私は上昇する恍惚の濁流に溺れる。数多の可能性は殺戮され、最愛なる死者の輪郭も失せた。残ったものは魂だけで、私は狂喜する彼等を嘲笑う。視よ。双眸に――勿論、器官的に在らず。精神の延長線上に――映る愚者どもは、無気味で淫らに気触れを演じる。嫌悪が超越的エネルギーを震動させ、私は嘔気に中てられた。されど臓物も逸脱に至った故、爛れて流れる『感情』のみ。苦難の苛みも歓びの糧なのだが! 取り敢えず。種族の集う空間に這入らねば。此処は酷く悲しみに溢れて在る……私は弧を進む。隣は騒々しい膿の臭いだが、越えた私に脅威は皆無。驚異も皆無。何処かで甲蟲の咀嚼する音が。ああ。何某が絶叫を発し……無意味だ。遍くものは愛で成り立つ。如何なる恐怖でも誰かの愛で養殖されるのだ。騙られる所以。語られる所以。筆の色は黒だろうか――超越的エネルギーが爆発した。私は飛散する自己を保つべく、中心への収縮を行った。魂とは細胞なのだ。養分を啜る人間の如く、私は超越的エネルギーを『一個』に纏める。危機は去った。原因を探るのが重要選択だと想え。其処には何が在る。其処には何物が。其処には何者が。烟は宙に融け、現れたものを晒し――素晴らしい。未知なるカダスでも観られない、真の現実が此処に映えたのだ。光景を描写するなど無粋の極み。私は己の超越性人間性に感謝するぞ。私は観光に傾倒した。精神の奥底から眩暈を覚えたのは幾年振りか。否。年月など如何でも好い。良いのは永劫に続く現なのだ――ああ。真逆! 其処に在るのは友なのか。私の老け貌を視た、貴方は私の高僧なのか。何と偶然な。今ならば私も『祈り』を捧げるだろう。愛おしい貴方。この爺に会う為――おお。掌の上に在る蟾蜍よ。ユッグゴトフの凄惨な業が、私の脳髄精神で暴れ狂うほどに。恐ろしい。恐ろしいぞ。何。演技に視えたのか。貴方も充分に理解容易な筈だ。彫像。絵画。小説。総てが怪奇に繋がるが、溺愛以外に進化は在り得ない。ええい。その貌は何だ。痙攣するような表情は。悦ぶべきでは……ない……か。


   ――ええ。そりゃあ。恐ろしいものですよ。

   ――彼の背後には不可視の……失礼。

   ――在ったのは蟾蜍でした。

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