須臾より

 群れる。蔓延る。普段通りだ。

 此処で現と戦い、幻の海へと帰還する。

 本質的な帰還は不可能で在り。

 文字の意味からは解放されず。

 世界アザトホートの理からは逃れられず。

 無限楽園ヨグ=ソトホートを歩むばかり。

 無間地獄シュブ=ニグラスを泳ぐばかり。

 さあ。人間混濁を始めよう。

 ――エラブネホテプ『感情』


 ※※※


 畜生が。糞が。貴様等に俺の脳髄に満ちた、異質に対する恐怖など解るものか。嘲笑う能無しどもが背中を刺し、破滅の警鐘も無碍に至った。総ては悪夢の産物で、魔王の胎動に任せるのみ。如何でも好い。誰か。俺の頭蓋を叩き割って晒せ。其処に感情など存在せず、理性の歯車も存在せず、蠢くものが在るならば良好よ。俺は此処で知ったのだ――数時間前――俺は道を進む、極々一般的な人類だった。退屈と騒々の混ざった、現実の景色を『皆』が奔り続ける。正に機械的だ! 機械ではないのか! 俺は苛々を胸に抱き、常々なる生を罵倒した。肉体とは石の如く、生命の自由を束縛する物体。即ち、法則の悪夢に囚われた、地の住人で在る。だが。俺は思うのだ。人間の脳味噌は本当に機能して在るのか! 他者の説を――解剖を行った輩も含め――鵜呑みに為すのは阿呆の人形。衝動は俺を圧して往く。そうだ。叩き割って覗こう。石造ならば破壊するのが道理。ああ。たまらないぇ。煉瓦を構えて背後から……からん。からぁん。空。カラ。り……と。


   須臾脳無しで。人間は人間を失った。

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