　精神が憤慨に荒々しく踏まれ、俺の脳髄は赤一色に染まり果てた。病的な悪夢が無貌の如く嘲笑い、嬉々怪々と踊り狂う。腸を抉るような音色は理性的とは言えず、強烈な己の沸騰を覚え……深呼吸が必要だ。俺は肺を膨張で癒し、現状把握に脳髄を傾倒させる。其処には何が在った。其処には何が佇んだ。其処には何が聳えたのだ。視るが好い。俺の思考を不安に誘う、脈動の塊を。此れ。眼前の物体こそが肉で成された壁で在る。だが。問題なのは材質の所以――普遍なる肉ならば良かった正夢！　蠢くのは贋物だ。生命を偽って描かれた、子供の散らした絵具に似て――俺は臓物を幾度も掻っ捌いた。老若男女の輪郭を問わず、己の胃袋に収めて続けた。ああ。故に壁が恐ろしい。俺の人生を冒涜する、痴愚の極みが恐ろしい。直さねば。正さねば……俺が糞餓鬼の戯れを真の欲望に晒さねば！　ええい。洟（ハナジル）小僧が。人間の肉の加工方法を、さあ、伝授して魅せようか！　興奮するのは好い。兎角。俺。鎮まるのだ……材料不足の現状で己を爆発させる事柄は『哀れ』な術よ。ああ。考えが甘かった。俺の側に『もの』が在るでは……皮を剥げ。肉を削げ。骨を貫け。内臓を引け――綺麗な絵具は其処に！

　隣の部屋が五月蠅い。ドウセ。奴がまた。

　パンと葡萄酒を。闇に燃える眼に捧げ。