夢名都市

 異常だ。抱擁する睡魔が総ての覚醒を阻み、幾年も経った。勿論、数など無意味の領域に在り、私は淡々と暗黒に浸る。最早。此処が何なのか。判断するのも不可能だ。破滅の闇が佇み。再誕の光を孕む――否。停滞だ。停滞的な現状だけが癒しを齎すのだ。眠りとは生温い頽廃的な娯楽だと思考すべき。私は今。夢の中に在ったのだ。反芻される過去の繁栄に縋り、私は……私達は。永劫に幻を舐るが好い。待て。何か。奇妙な音が耳朶を打つ。蟲ならば理解可能だが、大きい音など『有る』ものか。ああ。怖い。何者だ。何物だ。私達は安らかに暗黒と融けて在るだけなのに。畜生! 音だ。脳髄に響く――コッコッ――黙れ。眠りを妨げるのは生命体か。私も。仲間も。震え始めた。助けは在り得ない。ならば。私達で……暗黒が開かれた! 覗き込む存在は恐ろしい貌だ! 球体に凸凹。猿のような……何だ。貴様が放出する『もの』は何だ。止めてくれ。止めてくれ!


 私達は解放されてしまった。

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