ヒロインを交代させろ!!

武蔵-弁慶

第1話

「あぁ! 目を覚まされましたか?」

 パチクリ。私は瞬きをした。目の前には、金髪碧眼の物凄いイケメンの顔に、見たことのない天井。

 うん。取り敢えず。

「セイヤッ!」

 私は目の前の金髪イケメンを殴り飛ばしました。


 私の名前は美波みなみ奈美なみ。回文になっている変な名前だけど、私は気に入っている。そんな私は、只今売り出し中のアイドルだ。

 そう、アイドル。

 私は大学進学を機に何かにチャレンジしようと、アイドルグループのオーディションに行き、落選した。

 まぁ、当然で私は特に可愛いとか、特にダンスが上手いとかそういうことはないから。あえて言えるとすれば、普通より歌が上手いことと、親父に教えられた武術ぐらい。

 そんな私は落選したのちに、オーディションをした会社の人、現在のマネージャーにスカウトされた。最初は断っていた。まぁ、ただの腕試しのような気分でオーディションを受けたしね。けど、マネージャーの根気強さに私は折れ、アイドル界へと飛び込んだ。

 昨今競争の厳しいアイドル界。最初は色々と大変だったけど、徐々にファンが増えて来たし、芸能界での友達もできた。最近は深夜枠だけどテレビ番組でレギュラーを獲得した。これは偏にマネージャーの努力と私を応援し続けてくれ両親の賜物だと私は思っている。

 さて、そんな充実した生活を送っている私は大学から帰宅している途中だった。翌日の小テスト対策で図書館で勉強していたら、帰りが遅くなってしまった。親父が今日は鍛錬をしてくれる日だから、早く帰宅しなければ。その思いが私の足を早く動かせる。携帯を取り出し、時間を確認した。最近日が落ちるのが早くなってきて周囲は暗い。ふむ、七時か。何とか親父の鍛錬までには帰宅できそうだ。そう思った瞬間、激しい光に襲われた。トラックのライトのようだが、そんな訳がない。何故なら、此処は車が通れるような道幅ではないからだ。

 おいおい、何が起きてんだよ。

 それを機に、私の意識は沈んだ。


「ん〜、此処は何処なのかしら」

 私は呟いた。気持ち悪いくらいにフワフワのベッドから起き、私は室内をグルリと見渡した。寝室のようだけど、中々広い。室内にあるのは、私が寝かされていた天蓋付きのベッド。毛の長い絨毯。装飾の施された調度品の数々。どう見ても一般人の持ち物じゃない。

 私は先ほどぶっ飛ばしたイケメンを見る。ありゃりゃ、意識飛んでらぁ。

 着ているものは、これまた細かい装飾の施された西洋風な服。うーん、ラノベかネット小説にでも出てきそう。因みに私の服はそのまま。つまり、気を失う前と変わらずだ。

 とりあえず、今がどういう状況なのか聞かなくちゃ。

「おい、起きろ」

 私はイケメンの頬をペシペシと軽く叩いた。

「ん、うぅ」

 呻くが、イケメンは目を覚まさない。

 仕方ない。手っ取り早く起こすか。

 私はイケメンの鼻をつまみ、口を手を当てた。

「んぐっ!? ぐっ」

 あ、いい感じ。

「ぐはぁっ!!」

 ガバリとイケメンが腹筋の要領で起き上がった。中々コイツ鍛えてるのかも。目を覚ましたようで良かった、良かった。

 私は一人満足して頷いた。

「殺す気ですか!?」

 イケメンが私に突っ込んだ。

「黙れ。私の質問以外で喋るな」

「は!? 一体、何を言って」

「黙れ、つったろ。お前頭ン中空っぽなのか?」

 私は親父直伝のドスの効いた声でイケメンの襟首をつかんだ。あれれ、イケメン、何か顔色が悪いぞ? 大丈夫かな?

「分かりました。分かったんで、手を離してください!」

 イケメンは両手を上にあげて私に懇願した。

「いいだろう」

 私は手を離してあげた。青年はホッとした様に乱れた衣服を直した。

 私は先ほどまで寝ていた恐ろしいほどフワフワのベッドに腰かけた。イケメンに近くの椅子に座る様に顎で示した。イケメンは、大人しく椅子に座った。

「聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのかわからないけど、取り敢えず、貴方の名前と此処は何処か、どうして私は此処にいるのか教えて」

「分かりました」

 そして、イケメンは話し始めた。

「此処は、アイン国です。次に、私の名はケイン=ウィリアムです。そして、貴方が此処にいる理由は、私の」

 そこでイケメンことケインは言葉を区切り、椅子から立った。そして、私の足元で片膝をついた。

 ん?この構図どっかで。

「私の、『嫁』になってもらうからです!」

 そう言い、ケインは私に銀色に輝い指輪を差し出した。ケインの頬は赤く染まっていた。

 私はそんな彼を見て一言

「おい、全てにおいて詳しく話せ。話はそれからだ」

 と言い、ケインを無理矢理立たせて椅子に座らせた。

 いや、流石にプロポーズが急すぎでしょ!

「まず第一に、私はアイン国を知らない」

「でしょうね。まず、そこからお話しさせて頂きます」

 私に思いっきりプロポーズをスルーされたケインは少ししょんぼりしていた。んん、何か悪い事したかも。罪悪感が起きなくもなくもない。

「アイン国はセラフィーヌ大陸の隅、海に面するところにある国です。国土はあまり大きくはないですが、肥沃な土地と豊富な海洋資源、鉱山資源に恵まれた国です」

 聞きなれない単語が多いっ! その上、恵まれすぎな国だな、おい! いやいや、わりと本気で此処何処や。

「此処は、貴女の住む世界とは違う世界。そうですね、貴女達からすれば、異世界といえば分かりやすいですね」

「異世界……?」

 私の頭の中は一瞬でその単語に占められた。

「異世界です。そして、貴女は私の『嫁』として召喚された女性です」

 は? 召喚?

「もう一度いいます、どうか私の『嫁』になってください!」

 ケインは私にもう一度あのポーズでもう一度プロポーズを決めた。

「セイヤッ!」

 私は取り敢えずもう一度ケインを眠らせることとした。

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