Signal――シグナル――

神月 一乃

プロローグ

プロローグ 1


 とある領主が治める、小さな町。その町の近くに、領主の住む館がある。その町に吟遊詩人は数日宿泊していた。

 今日も酒場で数曲歌う。魔王を倒した勇者の鎮魂歌requiem

「その時魔王は問うた。何故我を倒すのかと。

 勇者は答えた。それが己の宿命さだめだと。

 魔王は再度問うた。その宿命は誰が決めたのかと。勇者は神と答えた。

 神とは誰ぞ? いと高きところにおわす、崇高なる方。

 王とは違うのか? 王とは違う。

 どのように違う?

 それに勇者は答えられなかった」

 リュートの音は静かに響く。

「問いに答えぬまま、勇者は魔王へ斬りかかった。

 魔王は障壁を発動したものの、魔導士がそれを打ち消し、魔王は倒れた。そして今生の世がある」

 ポロン、という最後の音に余韻を持たせて、吟遊詩人は弾くのをやめた。

「果たして今の世がいいのか悪いのか、諸君らは答えられるだろうか」

そう問うなり、吟遊詩人は床に落ちた金を拾い、外へと出た。


 彼が出来るのは、それくらいなのだから。



 酒場を出ると、既に囲まれていた。時の権力者にとって、彼は目障りなのだ。

「相変わらず、やることがえげつない」

 そう呟くなり、彼はリュートに隠された小剣を手に取った。

「さて、覚悟はできているのかな?」

 冷たく彼は笑う。その瞬間、彼を囲んでいた男たちが一斉にかかって来た。それを軽くマントでかわして、屋根の上へと魔法であがった。

「これで失礼するよ。を殺めたくば、アレに頼むことだね」

 吟遊詩人は音もなく消えた。



 それから間もなく、その町の領主は原因不明の病で倒れたという。


 誰が言い出したのかは分からない。気が付けば「吟遊詩人の呪い」と囁かれていた。

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