第2話 小麦粉ヤクザ、世界を渡る


「にしても見渡す限り美女ばかりだねえ、眼福眼福」

 

 神殿跡前、現在は神殿全体を覆うようにテントが張られて簡易的な天幕となっている。

 その神殿前には世界中から集められた美女達が屯している。これらはみな異世界を探訪するため研究者達が集めた者達だ。

 

「ほほぉ、やっぱりオッサンやな。おっぱいばっかみとる」

 

 リーヤが隣でじとーと優を睨めあげる、微妙に口元がニヤついており若干優の神経を逆撫でた。

 

「はんっ! おめぇみてえなチンチクリンにはない夢ってやつがあそこには詰まってんだよ」

 

 時間があれば寝所で美女達としっぽりいきたいところだ。


「うわっ、セクハラや! 若頭に言いつけたろ!」

 

「おまっ、それやめろ!」

 

 優はリーヤの肩を掴もうとするも、彼女はひらりと躱して駆け出す。置いていかれるわけにはいかず優もあとを追う、だが成人男性の脚力でもってしてもリーヤに中々追いつけないでいる。足場が悪いのとリーヤ自身もかなりの健脚をもっていたからだ。

 

「オッサン遅いで」

 

「やかましい……ゼェ……ゼェ」

 

 見かねたリーヤが足を止めて待つ。隣にはコンテナがあった。

 すぐに優が側に追いついて、膝に手をついて肩で息を切らす。

 

「情けないなあ、ひとまず着いたで」

 

 リーヤが拳でコンコンと隣にあるコンテナを叩く。そこに入っているのは異世界へ運ぶ小麦粉含めた物資と、必要な道具。

 

「ほな中を確認しよ……うひゃ」

 

「あぶね……」

 

 中身を説明しようとリーヤが移動を始めた瞬間、彼女は足を滑らせてしまう。咄嗟に手を突き出した優が地面に激突する前に受け止めた。

 

「大丈夫か」

 

「うん、あんがと」

 

 リーヤの顔が近い、髪と同じ青い瞳とできもの一つない白くて柔らかい頬、間違いなく将来は美人になるであろう。そう考えると照れくささというものが芽生えてくる。

 

「あのさ、うちこっちに来て色んな本を読んでん」

 

「あん」

 

 抱き抱えた体制のままリーヤが口を開く、喋る度に呼気が顔にあたってむず痒い。それに僅かだがリーヤの顔が赤く染まっている。

 

「ドラマとかもみてな、ラブロマンスていうんかいな、そういうのでこんなシーンがよくあんねん」

 

 確かによくあるシチュエーションだ。

 

「それでヒロインは顔を赤くして……そしたらすごいドキドキすんやけど」

 

「けど?」

 

「オッサン相手やと全然ドキドキせえへんわ、もっとロマンスりょくとか上げたほうがええんちゃう」

 

「しばくぞ!!」

 

「いぎゃっ!」

 

 手を離してリーヤを地面に叩きつける。運悪くゴンと頭を打ち付けてしまい、その痛みを堪えるように地面をもんどりうって転がった。

 そんな彼女を無視して優はコンテナの扉を開ける。

 

「こいつは」

 

 中に入っているのは中型の貨物トラックだった。キャブとシャシー、そしてボディに装甲が貼り付けられて一種の装甲トラックと化している。

 どこの紛争地帯に行く気だよと思ったが、異世界ならばやむをえないと思い直した。

 

「こいつで異世界を走り回るんや、ほな次は神様んとこ行こか」

 

 リーヤに示されるままトラックに火を入れる。ブロロと排気音をたなびかせながらムーラ島を走る。岩だらけではあるが、かろうじて車が通れるよう神殿までの道のりは舗装されていた。

 

 トラックのまま天幕を潜り抜けて神殿へと入る。ここまでの道のりはあらかじめ若頭から渡された許可証を使って難なく入ることができた。


 神殿の中央、不思議なアーチが見下ろす円形の台座にトラックを乗り上げると頭上から大仰な、年配を思わせる男性の声が響いた。

 

「汝、美少女を捧げよ」

 

「やべ、美女用意してなかった。戻って誰か声かけるか?」

 

「いやウチがいるから大丈夫やて」

 

「はあ?」

 

 それは心からの疑問だった、優は信じられないという顔でまじまじとリーヤを見つめる。

 

「ほんま失礼なやっちゃな、ウチが異世界から来たん忘れたやろ」

 

 そう言えばそうだ。

 

「おおーいじっちゃん」

 

 リーヤは窓から半身を乗り出してアーチへ向けて手を振る。

 

「お前神様に馴れ馴れしいぞ」

 

「おおリーヤちゃん、今日もめんこいのう」

 

 神様はとてもフランクだった。

 

「今から帰るから転移頼むわ」

 

「おけおけ〜、今度おチリ触らせてね」

 

「絶対嫌や」

 

 もれなくしてアーチの中心部が淡く五色の光を放つ、光は徐々に広がりアーチに光の膜を作り出した。一転して門のような姿をとった現象を見て優は呆けた顔をとる。

 リーヤに脇を小突かれて正気を取り戻した優はアクセルを踏む。

 

「わかってる思うけどあの膜を潜ればええしな」

 

「おう」

 

 簡単に言うが、初めての経験である優は緊張でハンドルを握る手に力がこもる。ゆっくりトラックを進ませて膜にぶつかる。一度抵抗を示した膜はあっさりと破れ、中から光の奔流を垂れ流しながら次第にトラックを受け入れて中へと取り込んでいく。


「ちょっと眩しいから目ぇ閉じとき、アクセルは踏まんでええし」

 

 直後眩い光が優の視界を奪う、あらかじめ忠告されてなければパニックになっていたかもしれない、ゆっくりアクセルから足を離してブレーキを踏んでトラックを静止させる。

 

 程なくして瞼の裏に広がる赤い光景が治まってくる、完全に治まるのをまってから目を開けると。

 

「これが……異世界か」

 

 目の前に広がる世界、それは絵本や映画で見たような中世ヨーロッパのような緑溢れる木と土の世界……ではなく、一面砂と石だらけ、植物は申し訳程度しか確認できない。

 アメリカのテキサス州、又は西オーストラリアの荒野、はてはかつて見た火星の表面のようだ。

 

「ようこそと言っておくで、ここが砂と岩が支配する荒野の世界『イシュトヴルム』や……地球には無い非常識がオッサンを待っとるで」

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